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エピソード環境市場新聞創刊時から連載する人気コラム。企業活性化教育研究所の長尾光雄所長が、企業研修時に経験した「自利利他」にまつわるエピソードを紹介します。

#43
自利利他 じりりた -1-

自分の利益は他人へ与えた利益の結果

 自利利他とは、自分の利益は、他人へ与えた利益の結果、得られるという仏教の教えだ。
 ある企業で13人の新入社員を営業マンとして採用、4人の営業課長のもとに分散して配属。私は社長から営業課長の一人である上杉さんが「配属された新人3人はいずれも屑だ。営業に不向きだ。不公平だ」と不満を言っていると聞いた。即戦力になる部下と、そうでない部下を持つのでは課の業績に違いが生じる。業績至上主義の会社だ。彼の不満も理解できる。
 研修終了後、私は上杉さんに話した。「あなたの言う通りかもしれない。でも3人の新人を立派に育てたら、あなたの評価は間違いなく高まる。3人も自分を育ててくれたあなたの熱烈な信者になる。それにあなたにどんな部下でも育てられるという自信が生まれる。それはどんな困難をも乗り越える力になり、生涯あなたを支える。損ではなく得をしたんだ。ダイヤモンドの原石を手にしたんだ。自利利他の精神で、本気で育ててみては?」。彼は私の話を本気で聞いてくれた。その表情からやる気を感じ、私は話してよかったと思った。
 だが事態は想定外の方向に進んだ。あの3人の新人配属の件は、社長が、上杉さんに昇進のチャンスを与えようとあえて厳しい試験を課したのだ。それに対し、彼は不満の態度で応えた。社長は、彼をもう一度教育し直そうと考えて、彼を課長から降格し、自分の目が届きやすい部署に転属させたのだ。
 私の話を聞いた彼は、新人育成に強い気持ちを持ったのかもしれない。だが、課長からの降格人事でその気持ちはなえたのだろう。今から思えば、私が彼の気持ちの変化を社長に伝えていれば、降格はなかったという可能性は大きい。
 その後、彼は退職。最近、復職する。「得る前に与えよ、大きく与えれば大きく、小さく与えれば小さく返ってくる──自利利他の精神──これが良かった」と彼は私に言った。

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