旅行の楽しみ方は人それぞれ
吾輩は、電気管理技術者の親方たちに飼われている猫の〝でんでん〟である。
「光陰矢のごとし」などと人は物知り顔で口にするが、猫の吾輩にとって、ぬくぬくとした安眠を邪魔する親方たちさえいなければ、時間はゆったり流れるものである。事実、親方たちが日本テクノグループの慰安旅行に行っていた間、吾輩は実にのんびりと悠久の時間の流れを感じながら、午睡を享受できた。
しかるに親方たちの旅行は4日間。つい先ほど出て行ったと思ったはずが、気がつけばもう戻っている。「あっ」という間である。「親方ども矢のごとし」である。
「中国は、香港を社会主義制度にせず、イギリスから返還されたときのまま資本主義制度の特別行政区として、一国二制度をとっているんだ」
「それを言うならマカオもそうさ。1999年にポルトガルから中国に返還されて、返還後50年はマカオに自治権がある一国二制度だ」
「マカオのGDPの約40%はカジノの売上で、政府歳入の約70%をギャンブルに頼っているって。それに観光産業も盛んで2005年の観光客は約1900万人っていうから、東京の人口が全部マカオに行っても足りない」
戻った早々、この喧噪。怒鳴り合いのような会話が続く。吾輩はようやく慣れてはきたが、知らぬ人が聞いたら、きっと仲裁に入るであろう。
それにしても旅行後の会話というのは、こんな内容がふさわしいのか。吸収したばかりの知識を投げ合うのが旅行後の楽しみなのか。猫の世界とは違う。いや一般的な人間の世界とも、きっと異なるのであろう。