山を守る営みと森林の恵みを体験学習
岐阜県関市にある市立洞戸中学校は県の中央部に位置する全校生徒54名の小さな学校。校区の洞戸地域は2005年の町村合併により、周辺の板取地区、武芸川地区などとともに関市に再編された。 周囲の自然環境を生かした同校の森林体験学習を紹介する。
チェンソーの使い方を教わる生徒 森林面積が8割を超え、全国でも高知県に次ぐ第2位の森林率を誇る岐阜県。洞戸地区はそれを超える9割が森林という緑豊かな地域だ。中央を流れる板取川は清流長良川の支流で、地元の湧き水「高賀の森水」は名古屋など県外からたくさんの人々がくみに訪れる人気の名水。
岐阜県ではこうした地域環境への関心・理解を深め、地域の将来を支える子ど の派遣やプログラム紹介など、環境教育支援を行っている。
洞戸中学校でも県の支援事業を利用し、1年生を対象に「森と水」をテーマにした体験学習を実施する。
この日の授業は学校からほど近い山林へ出向き、間伐作業を体験した。講師は中濃農林事務所林業課の大島弘義さんと、地元で木材店を営む大野公之さん。まず、山林の育成に必要な整地、植栽、間伐などの作業の概要、育った木材が近隣の幼稚園の建材に利用されている事例などが紹介された。
間伐作業体験では、生徒たちが大野さんの指導のもと、チェーンソーを使って杉と檜を伐採。木の種類によって異なる年輪の幅や色、香りを観察した。
自ら切った木材を手にする生徒 生徒から「間伐で山林がはげ山になってしまうことはないの?」「切った木は死んでしまうの?」などの質問が寄せられ、大野さんが答える。「間伐は混みすぎてしまった木を間引いて山に太陽の光を採り入れ、残りの木の成長を助ける大切な役割がある。間伐と収穫を繰り返すことで、健康な山林が育つ」。
講義ではそのほかにも「家の柱などに加工された木材は、水分の吸収と排出を繰り返す。その湿度調節という優れた特徴は加工後も生き続け、人間の健康な生活を支えてくれる」「山に育った木はおよそ30年で一人前の成木となるが、それに至らずに間伐された木材も成長過程によって、樹齢20年ほどの細い木は杭や造園材料に使われる。
また、50年を超えた木は家の柱や床板に、80年を超えた抱えきれないほどの大きな木は家の大黒柱や天井板に使用される。目的は変わるが、決して無駄にすることなく、それぞれの役割を果たす」など木材に関する知識も伝えられた。
自然あふれる郷土への誇りと愛情をいつまでも
別の日の体験授業は、地元の水道水と国産・外国産ミネラルウォーターの飲み比べをした。結果は外国産の水は区別できるが、地元水道水と国産ミネラルウォーターは違いがわからず、生徒の間で意見が分かれた。
1年生担任の塩谷眞由先生はこう話す。「他県から人気の湧き水なのに地元の人がそれをくみに行くことはほとんどありません。水道水が十分おいしいからです」。
1年生の授業風景
この恵まれた環境があるからこそ体験学習を通し、おいしい水を生む森林や、山を守る林業への理解を深めることが大切なのだという。
塩谷先生は「生徒たちは、当たり前にありすぎて今まで気づかなかったものに意識を向け、恵まれたきれいな環境を守っていきたいなどと感想を口にします。そうした自然環境に対する誇りと、郷土愛をいつまでも忘れずに育っていってほしいですね」と話した。
取材当日、授業に便乗して、檜の伐採体験に参加させていただきました。子どもたち同様、人生初のチェーンソー体験。両手で持つと、グゥーーンというエンジン音とともにずっしりと重いチェーンソーの振動が全身に伝わってきました。ご指導いただきながらなんとか切ることができた檜は最高にいい香り。お土産にいただいて帰り、今ではわが家の鍋敷きとして活躍しています(笑) ちなみに切り株は時間が経つと香りが少なくなってしまうのですが、紙やすりで軽く削ってあげると、また香りも復活して、長く楽しめるそうです。取材でいっしょになった中濃農林事務所の方が教えてくださいました。