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経営圧迫でも受け入れに悔いなし

 岩手鴬宿温泉 長栄館は、日本でも数少ない100%源泉かけ流し温泉を満喫できる宿。同館の代表取締役社長・照井貴博さんは20歳で現職に就いた。大学生のとき父である社長が亡くなり役職を引き継いだ。会長である祖父から、銀行印、実印、通帳をすべて渡され、好きにやりなさいと言われた。東日本大震災はその4年後だった。

岩手鴬宿温泉 長栄館と代表取締役社長の照井貴博さん岩手鴬宿温泉 長栄館と代表取締役社長の照井貴博さん

 激しい揺れに続く停電。利用客には全員ロビーに集まってもらい安全を確認した。このとき照井さんの頭にまず浮かんだのは「今日の夕食は提供できるか」だったという。幸いプロパンガスが使え、通常よりは簡素だが食事は出せた。
 翌々日3月13日の朝、ほとんどの利用客が帰ったあと、照井さんは津波被害が心配な沿岸部に車を走らせた。同行したのはそこに家族がいる従業員たち。「見つけたら、つれて戻る」と声をかけ、3日間通って2家族を同館に迎え入れた。
 それと並行して進めたのが水と食料の調達だった。被災者受け入れに向け、会長が「米と水を買い集めろ」と号令をかけたからだ。だが高齢だった会長は震災1週間後の18日に他界してしまう。照井さんはその遺志を受け動いた。一刻も早くと考え、調整を進めながらも、メディアなどを活用して被災者受け入れを表明。3月27日、県内で最初の受け入れを始めた。
 75部屋の生活空間を提供する方針で一部屋に一家族を迎える。従業員も寮ではなく館内に住み、互いに協力し合う体制をつくった。受け入れのとき、通常営業のサービスを提供するのではなく協力を求めることもあると事前に承諾してもらった。被災者は好きでここに来たのではない。それがわかっていたからこそ助け合うという絆づくりが必要と思った。その意志が通じたのだろう、避難生活を通し、従業員と被災者、被災者間のトラブルは一切なかった。

あのときの絆は今も

 7月末、受け入れていたすべての被災者が、ここでの避難生活を終え退館した。別れのときはどの家族にも、10キログラムの米と調味料を渡して見送った。「皆さん今では1年に1回はご来館されますよ」と照井さんはほほえむ。半年近く続いた被災者支援。当然、経営は圧迫された。だが少しも後悔はない。何よりも大きな絆が残っている。

こぼれ話 こぼれ話

 僭越ではあるが、若々しさの中にもたくましさを兼ね備えている照井社長でした。言葉ひとつひとつに重みを感じ、これまでに数多くの決断をし、様々な苦難を乗り越えてこられたと強く感じました。そんな照井社長から取材後、お食事に誘われた。兄弟でテストの点数が高かった方は好きなものを食べることができ、低かった方はすべて父親に許可を得ないと何も食べることができなかったというお寿司屋さんへ。そんな教育を受けたことのない私には衝撃でした。
 長栄館の温泉は源泉そのまま100%で、アトピーには一発とのことです。静かな環境の中で、最高の料理と最高の温泉で寛げる日を近いうちにと誓いながら帰ってきました。

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