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生物多様性レポート

生物多様性を維持していくために私たちに何ができるのか、
その可能性を探るコーナーです。

生物多様性を維持するのは自分たちの手

アンダーバー

 「ここは、全国で最も多くの絶滅危惧種を展示する動物園。だからこそ、生物多様性保全の大切さを伝え、広く発信していく使命があるのです」と話すのは、名古屋市東山動植物園(愛知県名古屋市千種区・東山総合公園内)で教育普及主幹を務める今西鉄也さん。
 東山動植物園の敷地は豊かな自然を蓄えた約60ヘクタールの広さ。名古屋駅から電車で20分と交通の便もよく、観光スポットとしても人気が高い。だが魅力は何といっても希少動物に会えることだろう。飼育している動物は474種で、うち115種は国際自然保護連合が指定する絶滅危惧種だ。絶滅危惧種とは、生息環境の破壊や密猟などにより数を減らして絶滅の危機に瀕している動植物のこと。
 同園は「人と自然をつなぐ場」として、次世代に持続可能な地球を引き継いでいくため、さまざまな保全活動を行っている。その1つが現在進行中の「東山動植物園再生プラン」だ。多様な動物に会えるという魅力は残しながら、より自然と向き合える「歴史と文化に育まれた人と自然のミュージアム」として再生を図る。2008年の「チンパンジータワー」を皮切りに、動物の飼育環境を改善することで希少種の繁殖を進めている。例えば同園で人気のゴリラは、全国で7園しか飼育されておらず、野生下でも生息数が減少している。以前はオスとメスのゴリラを1頭ずつペアで飼育することを前提に施設が整備されていたが、この方法は繁殖に適していなかった。そこで、野生のゴリラと同様に1頭のオスに対して複数のメスからなる群れ飼育を行うなど動物の特性に合わせて繁殖しやすい環境を用意。従来よりも格段に面積が広くなった新ゴリラ獣舎が建設され、今年秋にオープンする予定だ。

小中学生を対象にした環境教育プログラム
小中学生を対象にした環境教育プログラム
小中学生を対象にした環境教育プログラムの1つ「名古屋メダカ里親プロジェクト」。
絶滅危惧種のメダカの飼育方法などを学び、自宅で繁殖させたあと、動物園に返す。

獣舎整備、子どもの参加 ――絶滅危惧種の繁殖へ

 小中学生を対象とした環境教育プログラムも企画している。中でも好評なのが「名古屋メダカ里親プロジェクト」だ。かつては身近だったメダカも今は絶滅危惧種。子どもたちは、園内でメダカの生態や飼育方法について学んだ後、自宅に持ち帰り繁殖させて動物園に返す。「動物園に返すという責任感から、皆さん一生懸命取り組んでくれます。自分たちの手で守らなければ、生物多様性は保全できないことを学んでほしい」と今西さんは言う。
 これまで動物園で当たり前のように見ていたゴリラやゾウ、ライオン。しかし、私たちに馴染みのある人気動物の多くは、すでに絶滅危惧種に指定されている。今西さんは「テレビや本でも動物は見られますが、実物を目の前に仕草や鳴き声を体感すると生命を感じます。まずは生きた姿を見ることで動物に興味を持ち、命と自然を大切にする気持ちを養ってもらいたい」と来園を呼びかけ、その先にある多様性保全に思いをはせる。

こぼれ話 こぼれ話


 木につかまる姿がかわいらしいコアラも絶滅危惧種に登録されています。コアラの好物はユーカリですが、日本の気候では確保が難しい。そこでオーストラリアから種を輸入し、沖縄や鹿児島などの温暖地域で栽培し空輸しているそうです。飼育する動物の数だけ、さまざまな苦労や配慮があるとわかりました。
 同じ園内でコアラの繁殖を試みても血統が近いなどの理由から、繁殖に成功しない場合もあります。そのため、現在は全国の動物園でコアラを交換し、繁殖の機会を増やしているそうです。こうして全体で協力することで絶滅に歯止めをかけ、動物の野生復帰を見据えた施設運営を目指していきたいと今西さんは話してくれました。