全国的な環境意識の高まりの中で、教育分野においても幼少期からの継続的な環境教育の重要性が注目されています。「日本の環境教育」では、全国各地の環境教育授業の様子をレポートします。地域の特色を活かし地元住民と協力しながら進める授業や、企業が出張して行う出前授業などユニークな取り組みを紹介します。


No.21
東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室

田んぼでコメと電気の二毛作

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 東京都八王子市にキャンパスがある東京薬科大学の創立は1880年。日本で最初の私立薬学教育機関だ。薬学部と生命科学部を開設し、敷地内には薬学研究を目的とする4万1000平方メートルの広さの薬用植物園が併設されている。

東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室
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ダイヤマーク発電量は10倍超
 私たちの身の回りにある山や川といった自然環境の中には、未知の力を持つ微生物が無数に存在する。生命科学部生命エネルギー工学研究室では、そうした微生物、特に人間社会に役立つ微生物の研究に取り組んでいる。

微生物から電気エネルギー

 4月から5月にかけて全国各地で見られる田植え。田んぼの土の中には、電気をつくり出す"発電菌"と呼ばれる微生物が生息している。同研究室では7年ほど前からこの発電菌を使った「田んぼ発電」の研究を続けてきた。田んぼの土の中にマイナスの電極、水を張っている部分にプラスの電極を設置してこれをつなぐことで電気を流す。稲の成長過程では、光合成によってつくられた有機物が根を通して土の中へ出てくる。この有機物を発電菌が吸収・分解して電気エネルギーに変える。発電菌は自身が必要な栄養を有機物からとりながら、マイナス極の触媒としてその一部が電気となる。
 毎年4月になると、ゼミの学生が中心になり、電極の配線準備などを進め、4月末には田んぼでの田植え作業と発電実験を行う。教授の渡邉一哉さんは「田んぼ発電は年に1度の田植えの時期から8月までの水を張っている期間しか進められないので、他の研究に比べたら歩みは遅い。けれども、発電量は研究当初の10倍超です」とその成果を話す。
 発電量はまだ微量だが、有機物を効率良くエネルギーに変換できるよう、電極を稲の根元に設置し、電極の素材自体も根が貫通しやすくなるフェルト素材にするなど工夫を重ねてきた。結果、発電量は約140mW/平方メートル、携帯音楽プレーヤーが聞ける程度の数値を計測した。

東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室 千葉県野田市で田んぼ発電実験千葉県野田市にある田んぼでの発電実験

ダイヤマーク発電菌で排水処理
 田んぼ発電以外にも注目されているのが発電菌を活用した排水処理技術。家庭や工場から排出される下水の処理方法として、現在は電気を使って酸素を送り、水中の有機物を分解・浄化する方法が広く用いられている。
 家庭で利用される生活用水の量は一人一日当たり約290リットル。排水処理に必要な電力量は年間約70億キロワット時、日本の総電力使用量の約0.7%を占める。ここに発電菌を利用すると、有機物の分解に酸素が不要なため、電気をほとんど使わずに処理ができる。さらに有機物のエネルギーで発電までも賄える。
 この技術はすでに研究室での実験を経て実用化に向けた段階へと進んでいる。「災害などで電気の供給が止まった地域または電気が十分に供給されない発展途上国などでも微生物研究は活用できるかもしれない」と渡邉さん。私たちは生活のさまざまな場面で大量の電気を使用している。微生物の能力が「地球にやさしい21世紀型のエネルギー」として世の中に出て、役立っていけばうれしいと渡邉さんは話してくれた。

こぼれ話

こぼれ話

 東京薬科大学の敷地には薬用植物園が併設されています。この植物園、薬用植物園としては都内で最大。もともとは学内での教育・研究を目的に設置されたものですが、今では一般公開されており、地元の方の散歩コースになっています。自然観察路や、作物が栽培されている田畑、展示温室など、見ごたえ十分で大学にいることを忘れてしまいそうです。
 一角にある展示温室の入り口に、「トンキニッケイ」という植物の枯葉が入ったカゴが置いてありました。樹皮は桂皮(けいひ)と呼ばれ、古くから漢方薬に処方される生薬だそうですが、葉っぱの部分は、「葉柄を折ると良い香りがします」とのこと。早速一枚いただいて割ってみると…、シナモンの香りがふわっとしてきました。いろいろな植物を見るだけでも楽しいですが、こんなふうに教えてもらうとより興味が沸いてきますね。毎年、春と秋には公開講座や見学会も開催されているようですので、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

東京薬科大学にある都内で最大の薬用植物園
東京薬科大学にある都内で最大の薬用植物園 トンキニッケイの葉