職員や学生が事務室をのぞき込み、壁にあるSMART CLOCKをさして「この時計は何ですか」と聞いてくる。総務課の佐藤大輔さんが「電気の使い過ぎを教えてくれる時計です」と答えると感心した面持ちで眺めていく。「見える化」の導入が多くの人に省エネへの興味を抱かせた。
ここは北海道札幌市にある北海道武蔵女子短期大学。教養学科、英文学科、経済学科の3学科に約800名の学生が通う。教育理念は、すぐれた知性、清純な気品、実践への意欲という「知、情、意」を兼ね備えた教養豊かな現代女性を養成すること。
省エネ活動の一番の課題は冬場のデマンド対策だ。2つの大講義室が同時に使われ、そこに他の教室での講義や食堂の営業時間が重なると警報が鳴る。佐藤さんは、空調の集中管理盤で、未使用の教室や事務局の空調をオフにし、不要な照明を消すため校内を回る。それを通常のピーク対策としている。
最大ピークは、正月休み明けの初日。校舎内が完全に冷え切っているため、空調を一斉に立ち上げるこの日にデマンド値が最大になる。「見える化」導入後の最初の年は優先順位を決めて空調を稼働。警報に合わせオンとオフを繰り返した。翌年からは、ボイラー管理者に依頼して休み明け2、3日前から数時間ずつ空調を入れて、少しずつ校舎を暖めて初日を迎えるようにした。これで空調負荷の急増は低減された。導入前に比べデマンド値は45㌔㍗も削減できている。
静岡県函南町にある伊豆平和病院は、内科、リハビリテーション科、神経内科、皮膚科の診療を行う医療機関。169床の療養病床を備え、高齢者や障がい者の寝たきり防止、在宅復帰に力を入れている。
ERIA導入後、夏場の午後1時前後になると空調の負荷が高くなり、警報が鳴る状況が続いていた。そこで事務長の髙橋和則さんは警報時に院内を回り、空調のオフや、温度設定を弱めることでピークを抑えようと試みた。だが、利用患者や身体を使うスタッフのことを考えると極端な温度調整はできない。医師や他の職員からも「患者さんの体調が心配だ」などの意見があり、温度管理だけによるデマンド値の抑制には限界を感じた。
ほかにデマンド抑制の方法はないか。髙橋さんが着目したのは空調の室外機だった。
室外機の周辺温度を下げれば空調の効率は高まり、電気使用量は減らせる。髙橋さんはピークの時間に合わせて室外機への水撒きを実施する。当初はホースを引き回して直接水を撒いた。警報は減り効果はすぐに確認できた。さらに作業負担を軽減するため、穴を開けたホースを室外機の上に設置して、蛇口をひねるだけで水撒きできるよう工夫を施す。これにより、わずか数分の散布でデマンド抑制が可能になった。加えて施設営繕の担当者と協力して室外機の周囲にグリーンカーテンも育成した。
こうした改善を重ね、導入時175㌔㍗だったデマンドが今では164㌔㍗に抑えられている。
創業は大正元年。鹿児島県鹿児島市で地元名産のさつま揚げを製造する株式会社 有村屋。伝統の味を守り続け、1日に3㌧のさつま揚げを製造し、今では日本のみならずアメリカや東南アジアにも輸出している。
ERIAを知ったのは日本テクノの営業担当者が飛び込みで訪れたとき。話を聞き常務取締役の有村一喜さんは、「これなら電気使用の無駄を削減できる」と思った。自動で電気使用量を制御するのではなく、従業員の意識向上と行動が伴わなければ省エネは成功しないという点も好ましく感じた。
導入後は有村さんが先頭に立って空調の細かな温度調節など活動を開始。従業員への声掛けも積極的に行った。その効果はすぐに出始める。すかさず有村さんはさらなるピーク対策に取り組んだ。製造工程の調整による負荷軽減だ。
ここでのピークを押し上げる要因の一つは、揚げたての商品を急速冷凍するトンネルフリーザー。これが2台稼働している状況で、メインの生産ラインがフル稼働するとデマンドが上がる。とはいえ省エネ活動のために生産ラインを止めることはできない。そこで、今まで急な注文に備えて常に2台を同時稼働させていたトンネルフリーザーの体制を見直した。受注状況によるが、できるかぎり製造工程を調整し、原則として午前2台、午後1台の稼働でまかなえるように切り替えた。
そうした取り組みの結果、デマンド値は導入前に比べ30㌔㍗も削減できている。
香川県高松市にある「うどん本陣山田家」は、連休ともなると1日の来客数が3000人を超える有名店。本館や離れにある座敷やテーブル300席以上が開店から閉店まで満席状態のままになる。風情ある屋敷が、国の重要文化財にも指定されている店舗だ。
ERIAを導入する前は、積極的な省エネ活動をしていなかった。空調温度の設定は、真夏は20℃、真冬は30℃。営業時間中は基本的につけっ放しだった。東日本大震災後の電気料金の値上げが進むにつれ、店長の多田光倫さんは「何か対策を打たなくては」と考え、ERIA導入を決めた。
導入後、日本テクノによる勉強会が開かれた。「これまでも気にしていたが、外部からの情報で素直に受け入れることができた」と空調の設定温度を見直す。スタートは28℃にし、寿司場だけは25℃にすると決めた。当然、来客状況や天候に応じて設定温度は変えられるようにしたが、ほとんど変更することはなかった。全従業員が「見える化」による省エネ活動を理解していたからだ。それに、設定温度を意識するようになって、立ち仕事の自分たちと、座って食事を楽しむ来店客とでは体感温度が違うということに改めて気づいたせいもある。
その後は事務所の蛍光灯の間引きや、簡単に交換できる照明をすべてLEDに変更するなど取り組みは深まっていく。気がつけば、これまで本格的な省エネ活動は未経験だった店舗が「見える化」により26㌔㍗のデマンドを削減していた。
福島県白河市に工場がある株式会社 フォーマンスは、プラスチックフィルムを中心に冷凍食品の袋や梱包材などを製造する企業。既存の製品をはじめ、ニーズに合わせた新製品の開発や提案も行う。生産体制を柔軟に対応させることで、少品種大量生産が主流だった時代から多品種小量生産が求められる現在まで多様な要望に応えている。
同社のデマンドピークは、フィルム製造機3台と乾燥機が同時に稼働するとき。製造機は受注に合わせて3台がフル稼働する日もあれば1台だけのときもあった。それを2台が安定して動く状況にすれば、ピークは抑制できる。「それは同時に営業部門の業務改善にもなる」と取締役工場長の長野良輔さ んは考えた。
実行したのは生産計画の見直しだった。以前は営業担当の意見を優先した1週間ごとの計画で、これが稼働の偏りを生む要因の一つだった。それを2カ月単位の計画に変え、製造機3台が重ならないよう日程や時間帯も調整した。「当然、現場の力だけではなく、営業担当も協調姿勢をとってくれたから、この改善が実現できたんです」と長野さん。営業部門は福島から離れた東京にあり、密なコミュニケーションを図るためにテレビ会議も導入している。
計画に合わせ生産工程も工夫。それにより慣らし運転や調整ミスによるロスが少なくなり、起動時の負荷も減った。さらに従業員の労務管理にまでよい影響が及び、時間の持て余しや急な残業もなくなり、就業時間も平準化されたという。
東京都台東区に本社を構える株式会社 フジプライズは、カップやトロフィーなどの表彰品や各種記念品を製作・販売する企業。企業理念は「贈られたときの想いがいつまでも蘇るような商品を皆さまに提供し続けていきます」という顧客への温かい気持ちだ。
2012年4月にERIAを導入。決め手になったのは24時間の監視体制があることと、それに伴い保安点検費用が低減できること。導入前はビルの経年劣化による漏電を危惧していたが、常に自動監視されれば安心できる。これまでは月1度の点検が義務づけられていたが、24時間監視システムがつくことで2カ月に1度で済ませられる。
この導入時の説明で、総務・経理課係長の安井小百合さんは電気料金の仕組みも知った。「たった1回の突発的な使い過ぎで契約電力が上がる」ことに驚き、省エネ活動に本腰を入れるようになった。それまで73㌔㍗だった契約電力を52㌔㍗にする目標を立てる。実際に空調の温度調節などの取り組みを始めると55㌔㍗まで下げられた。
だが現状設備のままでは限界があると感じ、消費電力の高い空調を、新機種に入れ替えた。それでも警報が鳴ると、安井さんが社内放送で、各フロアの温度を1℃調整するよう呼び掛ける。新しい空調で効率が上がったため1℃の調整でも警報は止まる。そのほか、蛍光灯200本のLEDへの交換、会社で製作したポロシャツやジャンパーを着用しての空調負荷の低減といった取り組みで、目標は無理なく達成できている。