ロールカステラにハスカップジャムを配した「よいとまけ」。発売から62年を経ても愛されるこの商品の製造元は、北海道に複数の店舗を持つ株式会社 三星だ。ウトナイ店は、季節を問わず観光客が絶えないウトナイ湖近くの店舗。菓子、パンなどを製造販売し、休日には500名以上の来店がある人気店である。
ERIAの導入は本社の意向だった。だが4つある空調をすべて稼働させると警報が鳴る。「当初は営業時間中毎日です。どれを切ればいいのか試行錯誤を重ねましたね」と店長の本間寛之さんは話す。
確認を進めていくと、4つの空調のうち2つを止めると警報がやむのがわかった。そこで、店内の温度変化に注意しながら、稼働する2台と停止する2台を状況に応じて切り替えることにした。そのほかの細かな取り組みも併用して、警報の回数は減っていった。
だが課題はまだあった。寒い朝は店内でも10℃以下になる。これを暖めるには大きな電力が必要だ。低温では菓子やパンをつくる焼き釜の立ち上げにも負荷がかかる。その対処として利用したのが灯油ストーブだった。これで全体を少し暖めてから空調を入れるようにした。4台同時稼働はせず、2台のコンビネーションはそのまま。
「試行錯誤は1年ほど続きました。今はもう警報はほとんど鳴らなくなりました」と本間さんは言う。そこに至るにはスタッフ全員が工夫を出し合い、互いに無駄を省くための声掛けをするといった協力体制もあった。
スーパーマートサンアイ安来店は、以前ホームセンターだった店舗を改装したスーパーマーケット。経営母体の株式会社 サンアイは島根県と鳥取県に6店舗を展開する企業。食品から日用品まで幅広い品目の低価格化を実現し、地元の商品を扱うなど、地域密着の特色も打ち出している。
これまで「省エネとは、設備改善のことだと思っていた」と次長の佐藤宏行さんは話す。その言葉通り2011年には店内約200本の照明を高効率の蛍光灯に交換し、照明だけで電力使用量40%を削減。それでも以前より明るさは増した。その後、冷蔵冷凍庫と空調も刷新。これも25%の削減効果が試算された。
2013年にERIAを導入したのは、「設備改善だけではなく、運用改善でもまだ取り組める余地がある」と提案を受けたから。導入後は主に空調と照明の使い方を見直した。
警報時の店内の空調対応は設置位置ごとにルール化。稼働を優先させるのは、来店客が温度を体感しやすい出入り口とレジ周りにした。バックヤードでは、生ものを扱う作業場は優先的に空調を使い、事務所は常時つけておくのをやめ、使用時のみの稼働にした。
陳列棚の照明にも無駄を見つけた。飲料類は前列のみ照らせばパッケージは十分見える。そのため、それ以外の照明を間引き。合計60本で2・4㌔㍗削減になった。
ERIA導入後の運用改善などがもたらした削減量は契約電力で22㌔㍗。取り組みの余地は確かにあった。
約100名の入居者が生活する大阪府大阪市の介護老人保健施設ヴァンサンク。デイケアのサービスもあり、利用者とスタッフのふれあいを大切に、毎日を笑顔で過ごせる空間づくりを目指す。利用者の要望から始めた寿司バイキングやたこ焼きパーティーなどのイベントも人気だ。
第一に考えるのは、利用者の生活。省エネ活動だからといって、無理強いはできない。主な取り組みは、事務所や厨房といったバックヤードでのスタッフの活動と、自動制御による空調稼働の管理にした。
デマンドピークは13時前後と決まっていた。理由は厨房の食洗器や乾燥機、それに、おやつの準備で使用するオーブンの稼働が重なること。さらに利用者の入浴後のドライヤー使用も同じタイミングだ。だが原因がわかっても、利用者の生活リズムを考えると、「どちらの時間もずらすことはできない」と事務長の澤田安誠さんは考える。そこでピーク時には、事務所の照明やコピー機、プリンタの電源を落とすことにした。厨房でも、可能な範囲で食洗器と乾燥機の稼働時間をずらして作業をこなし、デマンドピークを分散させた。
加えて、食堂やデイルームなど共有部分の空調に自動制御システムを導入した。ピーク時には、4フロアの空調を5分間隔で順に止めていく。これで一部の場所に負荷をかけずピーク抑制ができるようになった。
取り組みの結果、237㌔㍗だった契約電力は40㌔㍗減の197㌔㍗にまで下がっている。
株式会社 富建の創業は1910(明治43)年。100年以上続く地元・長崎県大村市の老舗企業だ。建築資材の販売や施工などのほか、近年は地球環境への配慮に伴う省エネ住宅の推進にも力を入れている。そして、そのノウハウは、自社内の活動にも生かされる。
「以前は我慢の省エネをしていました。夏でも空調はなるべく使わず、温度も高めに設定。照明は間引く……。しかし、現場から不満の声があがってきたんです。そこで、その夏以降は"我慢の省エネ"から"我慢しない省エネ"に切り替えました」と話すのは、取締役営業本部長の原田岳さん。ERIAを導入し、我慢を強いることのない設備改善に着手していく。電気の見える化で、ピークの抑制と同時に、改善した設備の検証に利用しようと考えた。
中でも大規模な設備改善は、空調約20台の最新型への交換だった。これで1台あたりの消費電力は下がり、細かな設定も可能になった。新機種は曜日・時間帯ごとに稼働設定を変更できる機能があったからだ。「見える化」で得た電気の使用データをもとに詳細な設定を施せる。「展示スペースの来客パターンなどを読み取り、人があまりいない時間帯は省電力モードに設定。いつ来客があっても良いように室温を一定に保ちながら、自動で省エネできるようになりました」。
省エネ型空調機器の導入費用は、助成金の対象となったが、この申請書類の作成にも「見える化」による電力データが大いに役立ったという。
茨城県水戸市にある関東鋼鉄 株式会社は特殊鋼のスペシャリスト。全工程一貫生産による短納期・低コストを実現し、特に半導体向けの金型加工などに定評がある。
2009年3月にERIAを導入し、省エネ活動は業務部の藤咲勝さんが中心となって対応を進めた。効果は初年度から確認できた。
その後、「見える化」の重要性を再認識したのが東日本大震災以降の電力不足だった。代表取締役の森高臣さんは「電気のありがたみを痛感した」という。電気使用の削減を求められても製造機器は止められない。それ以外で無駄を省くことを強く意識した。
震災後、デマンド値の目標はそれまでより10㌔㍗減らして130㌔㍗に。以前の警報時には、事務所と社長室の空調を止めれば鳴りやんだが、新たな対策が必要になった。水銀灯を消し、研磨室の空調3台中1台を止める。一時停止中の製造機器の電源を落とす。
「そうやって無駄をはじき出しながら目標値を徐々に下げていきました。その結果、当社にとって適切な目標値は120㌔㍗だとわかったんです。電気の見える化を活用したことで、当社にとって適切な電力使用量がわかり、それを基準に無駄のないエネルギー管理ができるようになりました」と森さんは言う。
今後は、間引いて使用している水銀灯をLEDに交換することや、屋上のスペースを利用して50㌔㍗の太陽光発電設備を導入する計画などを進めていくという。
長野県内に5つの店舗を構える株式会社 笠原書店。1925(大正14)年創業の老舗書店だ。本店は岡谷市にあり、地域の情報発信拠点として、書籍や雑誌をはじめ、DVD、文房具など幅広い品揃えでニーズに応えている。
ERIA導入は2013年11月。「常にお客様がいらっしゃる店舗なので空調も照明も省エネは無理と思っていました。それが、他店の事例や導入後のシミュレーションを聞くうち、何かできる気が……」と代表取締役の笠原新太郎さんは導入時の心境を話す。
電気使用状況を確認してみると、デマンドピークは冬で、73㌔㍗だった。そこで8㌔㍗削減の65㌔㍗を目標値に設定した。
まずは警報時の対応を決めた。事務所にある警報が鳴ると、売り場スタッフに内線で知らせ店舗の空調を調整する。5台ある空調のうち古くて電力負荷の高い2台を送風や停止にするといった対応で、店舗全体に温度ムラがでないよう配慮しながら操作していく。
時間差による空調の立ち上げも実施した。これまでは5つの空調スイッチを一気に入れていたが、これを開店時間の9時半からの30分間と、10時からの30分間に分けて入れるようにした。
外灯がつく夕方にも警報が鳴るので、2つの外灯の点灯時間をずらしピークを分散した。警報時には事務所の電気ストーブを一時的に消すなど社内全体での協力体制も確立していった。やがて無理と思っていた省エネの成果は目標を超えて10㌔㍗削減に達していた。
静岡県島田市で緩衝包装材の設計と製造を行う株式会社 静岡ウエノ。企業理念は「適材適包」。地球環境を考えた適正な包装設計とその仕組みを提供することだ。
2011年2月、新社屋の完成に合わせERIAを導入した。その後、鈴木和昭さんが環境管理責任者として就任し、本格的な省エネ活動がスタートした。
まずデマンド値の目標を、従業員全体で共有し、意思統一を図った。工場内の夏場の空調稼働についても新たなルールを定めた。「以前は、パートさんが出社する9時半すぎには快適な室温になるように、8時半に空調を稼働していた」が、これを10時からの稼働に変えた。工場はスポットクーラーがあり、人がいる場所の温度をピンポイントで下げられる。加えて扇風機も導入したので、稼働のタイミングを遅らせても問題はなかった。
これで朝の空調稼働1・5時間分の電力使用が削減でき、生産機器の立ち上げもずらせるようになり、デマンド値は抑制されていった。
社員一丸となって取り組んだ省エネ活動は、契約電力で49㌔㍗から41㌔㍗と8㌔㍗の削減、電力使用量は35・1%削減という結果を出せた。
一連の活動を振り返って鈴木さんは、「無理をせずにできることからコツコツという姿勢が原点です。大変だと感じるものは長続きはしません。自分たちで当たり前のようにできることを、少しずつ積み上げていけば、きっと大きな成果となって表れてきます」と話している。