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いっさんのちょっといい話

エッセイの作者・いっさんは、テクノ家・おばあちゃんの友人。
実はこの文章、旅行好きないっさんが、旅先からおばあちゃん宛に送った
趣味の随筆の一部なんです。

感謝

アンダーバー

 自分も60歳を過ぎているのに、高齢の母親の下の世話を続けるある男性がいました。彼に心境を尋ねると、特に気負いもせずさらりと「この歳になり、また子どもを授かった気分です。ありがたく、お世話をさせていただいています」と答えてくれました。
 このような深い思いやりの心は、その母親が人間としてあるべき姿を身をもって示し、それがいつしか息子の心に刻み込まれた証でしょう。
 考えてみれば、心の持ち方ひとつで、目の前の世界は大きく変わります。母親の介護を苦労と感じるのか、ありがたく受け止めるのか。そのポイントは、「感謝」にあると思います。

 奥さんが家事をしてくれるのは当たり前、子どもが学校に元気よく通うのも当たり前、水道をひねれば水が出るのも当たり前というように、平素「当たり前の事実」に慣れ過ぎて、その当たり前を裏で支えている者への感謝の心を失っていないでしょうか。
 当たり前のことが当たり前のことにならなかったとき、人は不満を持ち、当たり前を実現してくれていた対象者・対象物を責め立てがちです。
 
 もし心の中を不満がよぎったら意識して感謝の心を呼び起こしてみてはどうでしょうか。感謝の心は不満の火を消してくれます。その気持ちから出る自分の言葉や行動が、これまで世界を灰色に見せていた霧を取り払ってくれます。周囲に笑顔や喜び、幸せが驚くほど増えてきます。
 
 私の知人の話です。
 母親の危篤の知らせに兄弟全員が、枕もとに集合したそうです。やがて臨終の瞬間、その全員が示し合わせたようにぴたりと声を揃え「ありがとうございました」と深々と頭を下げたといいます。知人のお母さんはきっと、感謝の心を忘れない素晴らしい人だったのでしょう。