今世紀後半 排出量実質ゼロへ
政府、「パリ協定」長期戦略を閣議決定
2019年6月、政府は「パリ協定」で国連への提出が求められている温室効果ガス排出削減対策の長期戦略を閣議決定した。すでに掲げていた日本の長期目標(2016年5月、閣議決定)である2050年までの80%削減を進め、それ以降、今世紀後半のできるだけ早い時期に排出量実質ゼロの「脱炭素社会」を目指す方針を明記している。
可能な限りの排出削減を進めていき、避けられない排出分は森林整備や都市緑化での吸収源対策のほか気体回収での再利用などをして相殺し、差し引きゼロにする。それを最終到達点の「脱炭素社会」とした。
目標実現のため、分野ごとにビジョンや対策、施策などを示している。エネルギー分野では、非化石電源比率の引き上げといったエネルギー転換や脱炭素化を進めるため、あらゆる選択肢を追求するとした。再生可能エネルギー(再エネ)はコスト低減や系統制約の克服を進め、経済的に自立した主力電源化を目指す。火力発電への依存度を可能な限り引き下げる。水素の製造コストを10分の1以下にして日常的に利活用できる「水素社会」を実現する。二酸化炭素(CO2)を回収して地下などに貯留するCCSや、回収したCO2を資源として活用しエタノールなどの化学原料を製造するCCUの技術開発も加速していく。
産業分野でも脱炭素化のものづくりを推進する。コークスを利用する高炉ではなく水素で鉄鉱石を還元するゼロカーボン・スチールの実現や、人工光合成の研究開発によりエチレンなどの基幹化学品の製造を目指す、エネルギー消費が大きい各産業の生産プロセスを中心に抜本的な省エネを実施する、フロン類の廃絶に取り組むなどだ。
そのほか、従来の延長線上ではない非連続的なイノベーションへの注力、ESG金融などグリーン・ファイナンスの推進といった分野横断的な施策も示している。
▼「パリ協定」長期戦略
地球温暖化防止のための国際的な枠組みであるパリ協定で、すべての加盟国に提出を求めている各国の長期的な対策指針。2015年の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で提出期限が2020年までと決められていた。
2016年5月のG7伊勢志摩サミット首脳宣言では、この長期戦略を期限より十分先立って策定し提出することを確認したが、日本は他国より策定作業が遅れていた。