エコニュースWebマガジン > 環境市場新聞 > アカデミックの現場から
日本テクノが考える「省エネ活動」、「電気設備の安全・安心」、「電力小売」など切り口にした解説や、「環境」に対する思い、「お客様」との協業などを紹介。

サステナブル社会とは
sustainable:「持続可能な」の意味。環境保護と自然開発を共存させ、
持続可能な経済成長を目指す社会のこと。

第2回
人材育成で持続可能な社会を創る

アンダーバー
阿部 治 阿部 治

立教大学社会学部現代文化学科教授。従来の環境教育を「人と自然」「人と人」「人と社会」といった「つながり」から整理する広義の環境教育を提唱。ESD研究所を設立し、現所長として「国連ESDの10年」の提唱などを行ってきた。

ESDが地域創生に大きな役割を果たす

  持続可能な開発のための教育(Education forSustainable Development)の略称がESD。サステナブル社会の実現に向けた学習活動を指し、内容は環境・多文化理解・平和・福祉など幅広い。地域に根ざす小中学生から大学生、生涯教育など多様な学びの場がある。
 現在、ESD研究所が特に重視しているのは「地域創生」の取り組みだ。まず衰退が懸念される日本の各地域から、自然・文化・歴史・人材などさまざまな「資源」を発掘し、さらに持続可能な開発の視点から利用する。この取り組みのために力を入れているのが、「人と自然」「人と人」 「人と社会」を「見える化」「つなぐ化」することだ。
 この地域創生を進めるため、これまで長崎県対馬市、北海道羅臼町、静岡県西伊豆町と提携し活動を行ってきた。研究所で培った教育カリキュラムを応用し、「地域に誇りを持ち、地域の抱える問題を粘り強い交渉を通じて解決できる」人材の育成を図っている。
 また、立教大学の地元である東京・池袋でも地域振興につながるESDを展開する。サステナブルな都市のあり方を考える「池袋学」という公開講座がその1つ。池袋にある東京芸術劇場と共同で開催する講座だ。



広がる学びの場

 所長である阿部治教授は、世界の環境問題を解決するためには、環境のことだけを考えていては駄目だと考え、ESD研究所を設立した。「環境問題の背景には経済事情や社会状況などがあります。そこに生じている歪みを改善しなければ、環境問題の克服も持続可能な社会の実現もできない。そこで大切なのは、正しい知識を持つ人材を育てることです。人材を育成し、地域創生などの実地で役立てるのが当研究所の役割です」と話す。
 ESDは、具体的には参加体験学習を通じてコミュニケーションや問題解決に向けた能力を養う「実践型教育」だ。「正解が1つでない」問題に対し、解決手法を実践的に養う。その重要性は義務教育でも注目されており、現在、文部科学省が進める学習指導要領の改訂作業ではESDが重要課題として取り上げられているとのことだ。
 また、ESDには社会教育や企業内教育といったニーズもある。ISOやエコアクションなど環境を意識した活動の中で、企業のCSRとしてESDに取り組む企業は年々増えている。
 「日本の少子高齢化・過疎化は世界の先端を行っており、今後他国でもその問題は顕在化するでしょう。その際、私たちが進める地域創生などの取り組みは大いに参考になる。世界でも地域でも活躍できる"真に生きる力"を身につけてもらうため、より一層ESDを普及させるつもりです」。


ESDシンポジウム

立教大で行われたESDシンポジウムより。アジア各国でもESDへの関心は高い


こぼれ話 こぼれ話

阿部教授は、実は日本の環境教育の草分け的な人物です。日本が主導し2005年から始まる『持続可能な開発のための教育の10年』の採択を国連総会に働きかけた際も、阿部教授らが中心となってロビー活動を行なうなど、その活躍の場は学窓を飛び越え、多岐にわたります。
また、ESDは企業内のニーズも高まっているそうです。特に食品メーカーや飲料メーカーでは持続可能性と自社の事業を両立が大きな課題となっており、そうした企業から人材育成を依頼されるケースも多いと聞きました。
サステナブルな社会を築くことは次代に豊かな地球環境を伝えていくために必要なことであり、その重要性は日本社会の至るところで認知されつつあるようです。