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日本テクノが考える「省エネ活動」、「電気設備の安全・安心」、「電力小売」など切り口にした解説や、「環境」に対する思い、「お客様」との協業などを紹介。

サステナブル社会とは
sustainable:「持続可能な」の意味。環境保護と自然開発を共存させ、
持続可能な経済成長を目指す社会のこと。

第3回
学生が山村再生を手伝う「意義」

アンダーバー

現場の問題を肌で知り、考える

 最新の農業白書によれば、耕作放棄地域は約39万ヘクタールにおよび、これは東京都の面積の1.8倍に相当する。特に、中山間地域での離農・過疎化が激しく、国土保全や水源かん養、さらに高齢者の心身面の健康といった問題が顕在化している。日本の国土全体のサステナビリティを考えれば、都市部の集中を緩和したほうが開発と保護のバランスはとれるが、都市部の人口増大は今も続く。一方で、「葉っぱビジネス」で名を馳せた徳島県上勝町の「いろどり事業」のような、中山間地域でのビジネス成功例は、残念ながら少ないのが現状だ。
 そうした中で東京農業大学の食料環境経済学科で取り組んでいるのが〝山村再生プロジェクト〞だ。
 「プロジェクトは長野県長なが和わ 町で実施しています。目指しているのは、地域の再生や活性化を担う人材の育成です。学生、地域住民、行政の3者が協働し、耕作放棄地の再生や伝統文化の伝承などに取り組んでいます。学生が町の皆さんと触れ合い、現場の問題を肌で知り、考えることで、自己実現を図ってもらうのも目的の1つです」(同学科・立岩寿一教授)
 プロジェクト課目の1つ「遊休荒廃農地の再生」では、市場のニーズが見込めるような商品価値を考え「えごま」「アマランサス」といった健康配慮型機能性食品などを栽培する。また「伝統文化活用実習」では、地元の職人から長和町で長年行われてきた和紙の紙漉きについて学んでいる。

遊休荒廃農地

遊休荒廃農地の再生では、商品価値の高い作物を栽培している。


学生たちは経験を糧に実社会へ

 「そのほかにも林業の手伝いや祭りへの参加など、いろんな形で交流を行っています。実習や交流の結果は、学生たちのワークショップで共有されます。このワークショップで各自が理解を深め、より具体的なプランとして町へ提案するんです。交流を通じて長和町のファンになる学生も多く、単位と関係なく、運営に携わるために毎年参加する学生もいるほどです」(同学科・山下詠子助教)
 同大OBが長和町にIターンするなど結果的に町の活性化へ貢献している部分もあるが、本プロジェクトはあくまで地域再生の「お手伝い」であり、主体は地元町民だ。町民がそれを理解したうえで学生を受け入れているからこそ交流は深められている。そうして、多くの学生が身近な農業の問題に触れ、考え、巣立っていった。学生たちは、たとえ分野は違っても、その経験を糧にサステナブル社会の構築に役立つ仕事に携わるようになっていく。
 最後に、今後の日本の農業の持続可能性について立岩教授の考えを聞いた。「農業はそもそも時代ごとにさまざまな課題を抱えるもの。少子高齢化は何も悪い面ばかりでなく、離農者が増えることで農業の集約・大規模化が進めやすくなるという側面もあります。高齢者が農業を続けやすいよう、小規模農業に適した農機具開発なども進むでしょう。日本の農業は今後、二極化して進化すると思います。中山間部でさらに高齢化が進むとき、どのような就農スタイルが理想なのか、長和町の皆さんと一緒に考えていきたいですね」。


立岩寿一教教授(左)と山下詠子助教(左)

立岩寿一教教授(左)と山下詠子助教(左)


こぼれ話 こぼれ話

紙幅の都合で書けませんでしたが、東京農大と長和町が「えごま」「アマランサス」栽培に取り組み始めた理由がもう1つあります。それは「食害」。鹿が増え、里に下りて野菜を食べ荒らすようになり、長和町の皆さんは困っていたそうです。
鹿の食べない野菜ってなんだろう…と考えていたとき、ある学生が一言「鹿って、雑草みたいなのは食べないよね」。一同、「それだ!」となり、見た目が地味な「えごま」「アマランサス」を植えてみたところ、鹿は見向きもしなかったとか。
おかげで畑一帯を食害から守る柵を設置せずに済み、コストと手間が抑えられたそうです。一石二鳥の「健康配慮型機能性食品栽培」でした。