全国的な環境意識の高まりの中で、教育分野においても幼少期からの継続的な環境教育の重要性が注目されています。「日本の環境教育」では、全国各地の環境教育授業の様子をレポートします。地域の特色を活かし地元住民と協力しながら進める授業や、企業が出張して行う出前授業などユニークな取り組みを紹介します。


No.20
岩手県立黒沢尻工業高等学校

出前授業の先生は高校生

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 岩手県北上市にある県立黒沢尻工業高等学校は、機械・電気・電子・電子機械・土木・材料技術の6科と、高校卒業後2年間の専攻科を入れた計7科のコースを有する。資格取得に力を入れ、2014年度は第一種電気工事士の合格者数が全国第2位。また文武両道を尊重し、野球部の4回にわたる甲子園出場やラグビー部の花園27回出場など、部活動でもすばらしい戦績をあげている。

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本庄市立藤田小学校

ダイヤマーク教える楽しさが成果
 黒沢尻工業高校では9年前にエネルギー教育実践校の指定を受けたのをきっかけに近隣の小中学校で理科の出前授業を行ってきた。3年生と専攻科の生徒が中心となり、専門性を生かした授業を展開している。
 授業の特徴は、実験を中心とした体験型であることと、使用する教材の製作から進行までを一貫して高校生が行う点。中でも電気科の生徒による電気エネルギー関連の授業は、実際の小中学校のカリキュラムに沿った内容で、小学生では「電気と磁石」「電気回路」、中学生では「発電の仕組み」「電磁誘導」などが取り上げられる。
 プロジェクターを使い、子どもたちに視覚的な実験への興味づけや授業全体の流れを説明。どうすれば飽きずに参加してもらえるのかを考え、ゲームの要素なども取り入れた実験をする。電気科3年生の横澤瑠維くんは、「専門用語を使わず、なるべくやさしい言葉で説明するよう心掛けている。授業の内容をわかってもらえるとうれしい」と話す。
 出前授業の本番前には、同級生や下級生を相手に模擬を繰り返す。電気科教諭の加藤正さんは「校内では失敗することも貴重な経験。失敗や反省を繰り返して改善点をフィードバックすることで、本番の授業が進化し、独自性も生まれる」と言う。

教えることが学ぶこと

本庄市立藤田小学校

 生徒にとっての一番の成果は「教える楽しさ」を知ること。子どもたちに理解してもらうには、まず教える側の高校生が内容を深く理解する必要がある。つまり、しっかりとした学習の習慣が身に付くということだ。「出前授業は地道な反省と改善の繰り返し。生徒の成長にとって、一見、遠回りにも見えますが、実は近道。卒業時には生徒がいきいきと、やる気を出して自ら物事に取り組む姿が見られます」と加藤さん。
 授業で使用した生徒手づくりの実験道具は小中学校に寄贈される。出前授業が生徒の学習意欲を高めるとともに、地域の教育環境の向上にもつながっている。

ダイヤマーク黒岩プロジェクト
 2012年からは、北上市や岩手大学、NPOと連携して、自然環境を生かしたエネルギーの活用推進事業「黒岩プロジェクト」にも参加している。地元の黒岩地区で、住民の要望を取り入れながら、産直センターへの太陽光パネル設置や間伐材を利用した薪ストーブ、ガーデンライトなどの製作を生徒が行う。
 出前授業や黒岩プロジェクトを通じて、授業で学んだ工業技術が地域へ還元されていく。地域と学校がともに歩み、支え合い、生徒の成長を後押ししていく。

こぼれ話

こぼれ話

 岩手県内の小中学校を中心に出前授業に取り組んでいる同校ですが、最初のころは、「外部の人間が授業に参加することへの不安」などを理由に、受け入れてくれる学校も少なかったそうです。「工業生は怖いというイメージがあるから…なんていう声を聞くこともあり寂しい思いもました」と担当教諭の佐藤さん。それでも、地元の大学との連携や、授業カリキュラムに沿った内容を盛り込むことなどで、訪問先が徐々に増えていき、今では回りきれないほどたくさんの小中学校とつながりをもつようになりました。 取材に訪問した日は、秋の文化祭の当日。学校には他校の生徒はもちろん、地元の親子連れやお年寄りまで、たくさんの方々が集まっていました。数時間の短い取材時間でしたが、地元に密着し、地元の方々に愛される学校の姿を見ることができました。

盤州干潟で見られる「アシハラガニ」
双眼鏡でカワウを観察