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電力需要逼迫と価格高騰、温暖化対策が喫緊の課題となってる昨今。再生可能エネルギーの利用、それを有効活用するための地域エネルギー供給システムの構築について、早稲田大学理工学術院の横山隆一教授がわかりやすく解説します。

スマートに電力需要抑制を実現するデマンドレスポンス

 2012年9月に、政府のエネルギー・環境会議が「革新的エネルギー・環境戦略」においてデマンドレスポンス(需要応答・DR)を国家的プロジェクトとして推進する方針を決定した。なかなか進展が見られないスマートグリッド(賢い電力網)の導入において、デマンドレスポンスは、最も早期実現が期待されている技術である。この技術は、データ記録および送信も可能なスマートメーターにより、電力需要家の消費状況や電気設備の稼働状況を計測し、これをスマートグリッド内の電力消費情報管理システムに送り、その集計結果を逆に消費者に送り返す仕組みによって実現される。
 需要家に自己の電力消費状況を「見える化」し、自発的に省エネルギーと節電を促すものである。
 従来の電力システムでは、需要変動に合わせて電力供給者が発電出力を調整することで電力需給のバランスをとっていた。これに対し、デマンドレスポンスでは、電力供給側が電気料金の設定をピーク時に割高にしたり、あるいは適切な電力抑制に対してインセンティブを支払うなどで、需要家側に電力消費の抑制を促すこともできる。この機能は、自動需要応答(Automated DR)と呼ばれている。
 とりわけ、わが国では、東日本大震災と福島第一原発事故以降、電力需給が逼迫するピーク電力消費を抑える有効な手段として注目されている。市場メカニズムを通して需要調整することを目的とした変動型の電力料金方式としては、最も深刻なピーク時に電力料金が平常時の数倍以上になるクリティカルピーク料金(Critical Peak Pricing)や、使用時間帯別料金(Time of Use)などがある。さらに、削減された負荷の受け入れやネガワット(削減電力)取引のように需要家が電力会社やアグリゲーター(需要の取りまとめ役)と取引して金銭を得る方式への展開も期待できる。
 実証プロジェクトの一つである北九州スマートコミュニティ創造事業では、地域電力の需給状況に応じて動的に電力価格を変える「ダイナミックプライシング」の実証が始まっており、住民に料金情報を通知することによって、HEMS(家庭エネルギー管理システム)なしでも20%もの節電が引き起こされることが確認されている。
 電力会社は、年間数十時間程度しか発生しないピーク需要に対応するために巨額の設備投資をしており、このピーク需要を確実に削減できれば、設備投資を抑制できる。原子力再稼働がままならず投資余力のない現在の電力会社にとっては、デマンドレスポンスは、経営基盤安定化の切り札となる。