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震災を越え、技術力を世界に

 福島県福島市で創業50年の縫製業を営む株式会社 サンレディ。時代の変化に対応し、品質にこだわる。厳しい経営環境でも納期順守の体制を維持し続ける企業。震災から今に至るまでの苦労を取締役専務の渡辺裕二さんに聞いた。

株式会社 サンレディ取締役専務の渡辺裕二さん。

 2011年3月11日は「ものすごい揺れと停電、断水のため、揺れが収まってから全員で帰宅しました」と渡辺さんは振り返る。復電した3日後の月曜日に全従業員の半数に当たる100名が出社した。社内を片づけながら、受注残の縫製作業を進める。電気は復旧したが、水道はまだ。隣接する研修生の寮では地下水を使用していたので、水槽タンクを利用し運んで使った。その後のガソリン不足で出社できる従業員が減ってくる。契約ガソリンスタンドから少しずつ給油してもらい送迎バスを走らせた。

受注と人材確保に風評被害の壁

 震災から1週間、原発事故の報道を耳にしながらも、なんとか通常営業を再開しようとしたとき、中国からの研修生30名が帰国してしまう。それでもほかの従業員が揃い本格稼働を始めた矢先の4月ごろから、注文のキャンセルが続いた。おそらく風評被害の影響だ。一時は仕事量が半分になった。
 中国の研修生で5月末に戻ってきたのは14名。小さい子どものいる家庭では他県への避難、家族の事情などから、従業員数が170名までになったこともある。
 縫製は完全な自動化ができない。技術を習得した人材が必要だ。だが風評被害と除染作業への人の集中で採用活動は厳しい。以前は中国から毎年10名を3年間の研修生として迎えていたが「フクシマ」と場所を告げただけでその人数が確保できない年が続いている。
 それでも懸命な経営努力を続け、多くの縫製業が集まる福島市で約200名の従業員の雇用を守りながら、最近やっと軌道に乗ってきた。
 それを後押しするような業界の動きもある。2015年1月、日本ファッション産業協議会は、日本の素晴らしい技術力と創造性の周知を目的に「J∞QUALITY商品認証事業」を立ち上げた。認証した純国産の衣料品にはオリジナルタグをつけ、世界に向けて知らしめる。渡辺さんの会社も認証を取得する予定だ。これからは震災を乗り越えてつないだ確かな技術を、広く世界に発信していく。

こぼれ話

震災当日は近所の中学校の卒業式だった。多くの従業員のお子様も通学しているため、会社としては休業としていたと聞いて、ちょっとびっくりもしたが、従業員にとってはありがたい話である。と同時に、卒業式に震災があったのかと複雑な気持ちにもなった。
アパレル業界の大きな変化にも負けず、風評被害にも負けず、自分たちの技術を信じて前に向かい続ける姿勢に感動し、業界としても「メイド イン ジャパン」のクオリティへの認定制度を設けると聞き、様々な業界での日本製見直しの潮流の中で服飾業界での日本製復活が本当に楽しみになってきた。