丸ごと体感! 環境の研究機関
茨城県つくば市にある国立環境研究所は、幅広い環境研究に学際的かつ総合的に取り組む国内唯一の研究所。1974年の発足以来、多くの環境問題の解決に向けて重要な役割を果たしてきた。ここでは毎年、春と夏の2回、施設を一般公開し研究活動を紹介している。今回は「春の環境講座」と題して先の4月23日に開かれたイベントを取材した。
初めて研究所を訪れると東京ドーム5個分というその広さに驚く。効率よく敷地内を見てまわるために位置関係を確認しておきたい。そこでまずは、今回の企画展の全容がわかる「所内ガイドツアー」に参加。1時間かけて所内を回り、各イベントへ向かった。時間が決まっているイベントもあるため、制限のないパネル展示などは合間で参加することにした。
最初は研究者と参加者が語り合う少人数の座談会形式の催し「エコカフェ」に参加。このときのテーマは環境問題の古典とされる『沈黙の春』の著者レイチェル・カーソン。世界がまだ環境汚染の恐ろしさに気がつく前からその影響に警鐘を鳴らし、現在の環境問題を予見してきた彼女の半生を学んだ。
会場を移り、体験イベント「自転車発電」へ。会場に入ると熱気と歓声に包まれていた。
ペダルをこぎ、その回転で発電される量を競う。参加後は自分の発電量が記載された表彰状がもらえる。ワット数の異なる電球が用意され、発電に必要な力を実感することもできるなど、小学生を中心に人気を集めていた。
地球儀型立体モニターの展示もあり、温室効果ガスの濃度分布が表示されている。そのデータは、温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」(愛称:いぶき)から受信したものだという。夏季には盛んな光合成によりCO2濃度が低いことがわかり、地域間の差や年々上昇している濃度の推移がみてとれる。
その近くでは、JALとの共同プロジェクト「CONTRAIL」の説明を受けることができた。JAL国際線に自動観測装置を搭載し、CO2の濃度観測や上空大気の採取を世界の空で行う。従来の地上観測を中心とした手法ではとらえられない、広範囲にわたる3次元分布と濃度の変動を観測することができるという。
研究棟を出ると、駐車場では見慣れない乗り物が走っていた。携帯型超小型電動モビリティ(愛称:コモビ)と呼ばれるものだ。様々な場面の移動に使えるよう変形機構となっていて、免許不要で時速6km/hで歩道走行も可能。コンパクトに収納でき持ち運びも簡単で日常生活における移動がすべてこの1台で可能だという。
ホールでのパネル展示で印象的だったのは、熱帯・亜熱帯沿岸のマングローブの植物たちと人々の暮らしを展示したもの。サンゴ礁の多くが環境の変化によって現在、衰退の危機にさらされている現実を知ることができるとともに、サンゴの骨格を実際に触れることもできた。
そして今回のメインイベントともいえるパリ協定がテーマのパネルディスカッション。パネリストには専門家に加え地元の高校生も参加した。司会者の質問に○×で答え、疑問に思うことは質問用紙を提出する来場者参加型だ。映像企画「2050年の天気予報」というユニークな映像企画や「パリ協定」採択の瞬間など貴重な映像も流され、環境問題を身近に感じ、考えられる場となった。
最後に参加したのは、土壌からのCO2排出(土壌呼吸)の様子が体感できるツアー。日本の森林にある土壌有機物の量は世界的にみても多いという。温暖化に伴い森林生態系がCO2吸収源になるのか、放出源になるのか、解明するためのシステムと観測の様子を間近で見ることができた。
研究所では、毎年科学技術週間(4月)と夏休み期(7月)に研究所を公開し、活動を紹介している。7月の「夏の大公開」は、敷地内すべての研究棟や施設が一般公開され、環境ミニ講座や体験型イベントなど、毎年たくさんの催し物を企画。自由研究のテーマ探しはもちろん、環境問題に楽しく気軽に学べるまたとない機会だ。
こくりつかんきょうけんきゅうしょ
国立研究開発法人 国立環境研究所
〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
029-850-2314(代表)
https://www.nies.go.jp/
環境問題解決に向けた研究のまさに最先端が集結していました。施設の名前だけをみるとカタイ(失礼)印象でしたが、小学生でも楽しめ理解できる展示も多く、幅広い世代で楽しめるイベントでした。今回は13カ所ある研究棟から2施設だけの公開でしたが、それでも見ごたえ十分。1日滞在しても飽きない内容でした。ただ、敷地が広大なので、訪れる際は見学するポイントをしっかりと決め、歩きやすい靴で臨むのが賢明です!