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生物多様性レポート

生物多様性を維持していくために私たちに何ができるのか、
その可能性を探るコーナーです。

「次世代に美しい海を残したい」

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館長は現役大学生

 2010年「おきのはた水族館」としてオープン。当時の館長、近藤潤三さんは筑後中部魚市場長であったことから、環境悪化による漁獲量の変化を目の当たりにしていた。「その状況を食い止めたい」。近藤さんは環境問題に取り組む大学に研究費を寄付する活動を手始めに、自らも一般の人々に向けた啓発活動を行うようになる。その拠点として設立したのが同館だ。
 一方、高校で生物部に所属していた小宮春平さんは、海の保全活動を行う九州の学生団体「有明海塾」のメンバーだった。「子どもの頃から生き物が好きでした。特に見たことのない魚や貝を見つけたときは、胸が高鳴ります」。そうした活動の中で有明海に生息する生き物の多くが絶滅危惧種に指定されているのを知る。「次世代に美しい海を残したい」。当時は別の拠点で活動していた2人だが、環境への思いは同じだった。
 その後、近藤さんが体調不良で休館を余儀なくされてしまう。そこで水族館の運営を引き継いだのが「有明海塾」だった。仲介をしたのは、運営の支援も申し出たNPO法人の「SPERA森里海・時代を拓く(以下、SPERA)」。こうして2016年、小宮さんを館長に、「やながわ有明海水族館」としてリニューアルオープンした。

館長・小宮春平さん
ウナギや川下りで有名な観光地、福岡県柳川市にある「やながわ有明海水族館」。
この水族館の館長・小宮春平さん(写真)は、20 歳の現役大学生でもある。

 ここでは地元を中心にさまざまな環境活動を行っている。例えば、SPERAや近隣の高校と協力して実施するウナギの再生プロジェクト。ウナギは柳川の名物とされるが現在はほとんど生息していない。それを楽しみに訪れる観光客が満足するのか、地元の関係者は常に不安を抱いていたのだ。ウナギの稚魚を採捕し、人間の手で成魚まで育ててからタグを付けて掘割の水路に放流。それを再び採捕し、柳川にウナギの住める環境があるのか地道に調査している。
 また、ウナギは海で生まれ川で成長するが、木でできた水門が鉄製に変わり隙間(連絡口)がなくなったことも、生息数減少の一因とされている。常に水門を開放すると塩害の発生などが懸念されるが、ウナギが上がってくる大潮の数日間に限定して、水門を開放してはどうかという提案も行っている。

掘割の水路のほとりにある「やながわ有明海水族館」。

掘割の水路のほとりにある「やながわ有明海水族館」。
掘割の水路のほとりにある「やながわ有明海水族館」。

 若者ならではの取り組みも盛んだ。彼のツイッターのフォロワーは、生き物好きが集まる。採捕した生き物の写真をアップすると、フォロワーが情報を提供してくれる。環境活動の参加者募集などにも役立つ。
 小宮さんは、学生が環境活動をする利点をこう話す。「私たちは学生の立場を大いに活用すべきです。大人になると、しがらみが増え、見て見ぬ振りをしてしまうことも多い。そうした束縛が少ない学生なら、提案も自由にできます」。
 そして一般の私たちに向けても、「昨年、江戸川でアサリを掘りました。東京にも貝が生息できる環境はある。ただそれを知らない人が多いのです。もっと多くの人に知ってほしい。少しでも身の回りの生き物に興味を持ってほしい。地元に生息する生き物を知るだけでも、環境活動の後押しになるのです」と呼びかける。

こぼれ話 こぼれ話


取材前、生き物について調査するため、モンゴルに出かけていた小宮さん。よく海外にも足を運ぶそうです。今生きているのかすらわからない生き物もいるけれど、それを見つける過程が楽しい。まるで宝探しのようだと話します。「地域のためではない。私はただたくさんの生き物が住む海にするため、環境を守りたいだけなのです」という言葉が印象的でした。