樹皮有効利用の研究は地域への恩返し
大分県立玖珠農業高等学校は県の中西部、玖珠郡玖珠町にある農業系専門高校。地元の基幹産業である農業や畜産に従事する人材の育成に注力してきた。
玖珠農業高校では2年前から、杉やヒノキの樹皮「バーク」を活用した循環型農業の研究と、それによるCO2削減を推進してきた。バークとは木材加工の際に剥がした樹皮のことをいい、これを細かく粉砕したものが、堆肥などの原料となる。しかし一方で、バークを利用するには加工の手間がかかる。玖珠町は隣接する日田地域とともに日本有数の杉の産地。年間に約9万立方㍍ものバークが産出されているが、その大半は利用しきれず焼却処分されてきた。そこで同校ではバークを資源としてもっと活用できないかという思いから、専門分野である農業や畜産での研究を始めた。
バークマットでトマト栽培
バークマットを観察する中川さん(左)と熊谷さん。意外な発見が
楽しいバークマット栽培。「トマトの収穫が楽しみ」と話していた 生物生産科3年生の中川一樹さんと熊谷雄一郎さんの今年度の課題研究は、「トマト栽培におけるバークマットの活用」。先輩から引き継いだ研究でトマト栽培の培地として土の替わりにバークを用いることの有用性は実証されている。しかし粉末状になっているバークは扱いにくい。そこで本年度はバークの持つ優れた通気性や保水性を生かしつつ、扱いやすく改良するための研究を進めている。
苗ポットにもバークをまぜることで根がよく張る 栽培にあたって、まずは粉末状のバークを熱圧してマット状に成型。こうすることで風で飛び散るようなこともなく、持ち運びも容易になる。圧力や時間を変えながら、16通りのバークマットの試作品をつくり、トマトの苗付けに最適な硬さや作業効率について調べた。
調査の結果、「圧力をかけた時間によって吸水性に違いが出る」「圧力をかけたことでバーク繊維の向きが一定になり養液の浸透性が向上した」など、さまざまな発見があった。
研究成果の共有
牛舎の寝床には、おがくずの替わりにバークを敷く トマト栽培と同様に校内の畑で栽培中のトウガラシや稲苗の培地として、花き栽培用の苗ポットにもバークが使用されている。またそれらバーク培地で収穫した農作物は栽培を担当した生徒とともに食品化学を専攻する生徒が加工方法を研究する。そうして地元デパートでの販売も視野に入れ、1〜3次産業までを包括する6次産業へと広げていく。さらに20頭近くの牛を育てる学校の牛舎では、牛の寝床に敷くおがくずをバークに替えて使用し、堆肥としての有効性も研究中だ。
豊富な資源を生かして循環型農業を展開
同校ではこれら各分野について、生徒による定期的な発表の機会を設け、学校全体でバークの研究成果を共有し、地元の農業研究会などにも積極的に参加している。最近では外部から見学を希望する声も上がるようになった。担当教諭の河津文昭さんはこう話す。「こうした反応は生徒たちの刺激になり、地元の農家の方々にとってもよい刺激となります。農業の活性化につながってほしいと思います」。また、生徒に地域貢献の機会を多く提供してあげることは学校の使命とも話す。 バークという資源が、林業と農業をつなぐ大切な役割を果たし、さらには畜産や食品加工などの場においても形を変えて循環利用されていく。地域の産業と深く関わり、地域の人々に支えられている農業高校。バーク研究はそうしたことへの恩返しの場としても動き出している。
日本有数の杉の産地である玖珠町には、町のシンボルともいえる「切株山」という山があります。その名の通り木を切ったあとの切り株のような形が特徴。山頂にのぼると、遠くに九州山地、また玖珠農業高校を含む玖珠町のまちまなみを一望することができます。 切株山に残る伝説によると… 遠いむかし、玖珠地域には木のてっぺんが雲の上にまで伸びるほどの大きなくすの木がありました。畑も田んぼもみんな影になってしまうほどの大きな木で、村の人たちは作物が育たず大変困っていました。 そこで、村人は大男に頼んで3年3ヵ月もかかってこの木を切り倒してもらいました。その大きな木の切り株が現在も山として残っていると言われています―――
山頂からの眺めは、この伝説が今の美しい田園風景につながっている、と感じることがでるような、とても清々しい景色です。