教室は東京湾最大規模の干潟
千葉県木更津市の市立金田小学校は、東京湾アクアラインの入口、木更津金田インターチェンジ近くにある。開校は1873年(明治6年)、140年以上の歴史を持ち、現在は全校児童132名が通う。
金田小学校では20年ほど前から、盤州(ばんず)干潟での環境教育に取り組んでいる。盤州干潟の面積は、1400ヘクタール。東京湾で最大規模の広さがあり、学校からは約3キロメートルの距離だ。子どもたちは入学から卒業までの6年間、干潟でのフィールドワークと調べ学習を行う。
児童が手づくり生物図鑑
1、2年生のテーマは、干潟に親しむこと。そこに生息する生物や草木を使った遊びを考え、実際にやってみることで、干潟が身近で楽しい遊び場となっていく。続く3、4年生では干潟を知ることがテーマ。干潟の生物を「貝・カニ・植物・魚・鳥」の5種類に分けて、おのおのが最も興味のある生物について、その種類や特徴を調べ、現地で観察をしてから「干潟図鑑」をつくる。
5、6年生ではさらに干潟への理解を深めていく。それまでの4年間で得た知識をもとに、盤州干潟と他エリアの干潟を比較、世界の環境問題についても調査の対象を広げ、レポートを仕上げる。また5年生は、干潟を守るために自分たちに何ができるのか、という視点からゴミ拾いも実施している。
教務主任の土生こずえさんはこう話す。「干潟に流れ着くゴミのほとんどが、私たちの暮らしの中から出る生活ゴミです。子どもたちも実際に目にすることで、干潟と自分たちの生活とのつながりを理解し、ゴミの出し方など日常生活のあり方にまで考えが及んでいきます」。
専門家が知識を伝授
干潟学習には専門家の協力が欠かせない。地元で漁業を営む斉藤高根さんは、3、4年生の児童を対象に干潟で多く採れるアサリの浄化作用をテーマにした特別授業の講師を務める。米粉で白濁させた水を使い、アサリがその水をきれいにしていく様子を観察。漁師としての実体験を交えながら、海を守る漁師の役割を子どもたちに伝える。
毎年、干潟の現地学習に同行してくれるのは東邦大学名誉教授の風呂田利夫さん。風呂田さんは大学で干潟の研究を長年続けてきたスペシャリスト。学校では現地学習を6月に2回、9月に1回の合計3回実施しているが、例えば春に観察した渡り鳥のカワウが、秋になると一気に減り、カニなどの生物も姿を隠す。そんな季節による違いや、子どもたちの持つ疑問に風呂田さんが答える。昨年の授業では、千葉県で絶滅危惧種とされているハマガニを見つけ、その場で児童を集めて詳しい説明を始めるなど、頼もしい存在だ。
干潟に親しみ、干潟を知り、さらに理解を深める。子どもたちは、6年間のさまざまな体験を通して、盤州干潟が持つ豊かな生態系や特性を知り、地域への愛着や誇りを育んでいく。
「今はまだ、全員参加の授業として干潟とかかわっていますが、将来的には、自分たちの意思で干潟と向き合い、守り育てるためにどうすればいいのか、一人ひとりが考えて行動できるよう成長してほしい」と土生さん。干潟を「知る」ことが成長の第一歩になっている。
2015年6月1日に盤州干潟で行われた干潟学習。全校児童で生物の観察などを行った
盤州干潟では、大きなハサミを持つ「アシハラガニ」というカニを観察。また、河口付近には、それよりも身体の小さい「チゴガニ」も多く生息しています。チゴガニの特徴のひとつが、オスのカニが見せるダンス! 少し離れたところから静かに観察していると、巣穴から出てきたチゴガニ達が、万歳のポーズのように全身を上下させて、揃ってダンスをしているような姿を見ることができます。敵への威嚇のポーズとも、メスへの求愛のポーズともいわれていますが、はっきりした理由はわかっていないそうです。
また干潟の一角には、渡り鳥のカワウの巣が集まるエリアも。カニや貝などの生物が住む砂地から、背丈ほどもある草むらの道なき道を抜けて木陰からそっと覗くと、巣の中にいるカワウの姿を見ることができます。この観察場所は金田小学校の児童が案内してくれました。大変な道のりを一緒に行ってくれて、ありがとうございました!
盤州干潟で見られる「アシハラガニ」
双眼鏡でカワウを観察