考える──理想の地球の届け方
「ここは科学館ではなく、未来館。未来について考える場所です」と話すのは、科学コミュニケーター(工学博士)の片平圭貴さん。東京都江東区青海にある日本科学未来館は、「世界をさぐる」「未来をつくる」「地球とつながる」という3つのテーマのもと、先端科学技術を、宇宙、生命、情報などの分野に分けて紹介している。
では、なぜ「科学館ではない」のか。それは、科学を通じて思考力を身につけることを目的としているからだ。
同館では、片平さんのような科学コミュニケーターと呼ばれるスタッフが、来館者と対話しながら未来について考えるきっかけづくりを行う展示物はツールの1つであり、来館者がそこで課題を発見することに重きが置かれているという。
2016年4月、館内の半数近くの展示物が、リニューアルされた。そこで、新たに設置されたのが、「未来逆算思考」。次世代に理想の地球を届けるゲーム形式の体験展示だ。
まず展示入口で50年後の地球に住む私たちの子孫から手紙が届く。「人間が豊かさや便利さを求めてモノを消費してきた結果、私たちは資源や文化を失い、貧しい時代を生きている」と。こうした未来を救うため、50年後から逆算して理想の地球を届けるのだ。
次に8つのテーマから理想の地球を選ぶ。「地球温暖化がストップした地球」や「いつまでもきれいな水が飲める地球」といった環境に関連するものをはじめ、「言葉の多様性が守られている地球」など文化をテーマとしたものも選択できる。ここで理想の地球へ導くためのルートを自ら決め、ゲームを進めていくが、そこにはさまざまな障害が待ち受ける。
終了後、再び子孫から手紙が届き、障害に当たったとき、地球で何が起きていたのかを知らせてくれる。画面では研究者からの解説も確認することができ、この先どのようにすればよいか考える仕組みになっている。
実際に理想の地球を届けられるのは、100人に1人ほどの割合。それだけ明るい未来を届けるのは難しいことなのだ。「50年後に理想の地球を届けられなかった。では、どうすべきか自ら考えることに意味があるのです。一人ひとりが未来づくりに参加してほしい」と片平さんは話す。
社会の変化に身を任せてしまうことが多い私たち。しかし、誰もが社会や環境を変えていくチャンスを持っている。広報担当の西岡真由美さんは、「当館は市民と専門家をつなぐ拠点だと考えています。さまざまな立場の人が意見を発信し、語り合いながらこれからの世界を形づくる場にしていきたい」と話す。
同館には「未来逆算思考」のほか、さまざまな視点で未来を考えるきっかけが、ちりばめられている。あなたの参加が未来を変える一歩になるかもしれない。
にっぽんかがくみらいかん
日本科学未来館
東京都江東区青海2-3-6
03-3570-9151(代)
10:00~17:00(入場券購入は16:30まで)
火曜日(祝日の場合は開館)、12月28日~1月1日(臨時の開・休館日あり)
大人620円・18歳以下210円(その他、団体割引、企画展の特別料金などあり)
http://www.miraikan.jst.go.jp/
未来について考える場所、日本科学未来館。「未来逆算思考」をはじめ、その他の展示物の多くは、あえて初めに“暗い未来”を提示しているといいます。それは未来に危機感を感じてもらうことが、より深い思考につながるから。ただし、決してこわい施設ではありませんよ?科学コミュニケーターがやさしく解説し、皆さんを明るい未来づくりに導いてくれます。
「未来逆算思考」では、未来の考え方は2つあるということを学びました。現在の延長線上に未来を描く「積み上げ思考」と、理想の未来を思い描いたうえで、現在にさかのぼる「逆算思考」です。これらは状況に応じて使い分けが必要になりますが、その場しのぎになりやすい「積み上げ思考」に対して、「逆算思考」は先を見据えた中長期的なものの考え方。こうした「逆算思考」を身につければ、明るい未来や人生を設計できそうですね。