海に浮かんだ大型の風車が電気をつくる
吾輩は電気管理技術者の親方たちに飼われている猫の〝でんでん〟である。最近、吾輩の寝床であるこの事務所に、サーキュレータなる空気をかき回す装置が置かれた。凍える冬季に、風をつくるものを設置し、人間様の頭脳はいかなる構造なのかと当初いぶかしく感じたが、これが存外、心地よい。吾輩の定位置である部屋の隅は、冬場は寒風吹く枯れ枝の上と変わらぬ場所であったが、この装置の出現後は、循環する風で暖気がほどよく供せられ、午睡に適するようになった。あとは親方たちの大声を張り上げる議論さえなくなれば……。
「政府が方針を決めたぞ! 福島県沖に浮体式の洋上風力発電所を建設するようだ」
「浮体式!?」
「洋上風力!?」
音量が異常である。なぜ日常の世間話に、それほどの蛮声を用いる必要がある。それに、同じ話を昨日もしていたではないか。
「浮体式洋上風力発電とは、簡単に言えば、海の上に浮かべた風車で風の力をつかまえ、その力で電気をつくることだ。浮かんだ風車の土台は鎖で海底につなぐ。土台ごと海底に設置して固定する着床式という方法もあるが、水深距離が長いと建設コストがかさむ。日本は遠浅の海が少ないから浮体式が適してるんだ。計画が実現すれば、2020年には60基以上の大型風車が海に並び、30万㌔㍗以上の発電ができる。発電所の建設やメンテナンスで2万2000人の雇用創出効果も見込まれているぞ」
親方たちは、なぜ同じ会話を繰り返す?と、そのとき、尾に強烈な痛みが走った。
「ンぎゃーあ!」
親方の一人が慌てて足を引いた。吾輩の尾を踏んだのだ。見ると、ここにいるのはその親方一人のみ。どうやら親方たちの会話は吾輩の夢の中の事象であったようだ。暖かな心地よい風が、風車の話題を連想させ夢に現れたのだろう。ならばせめて、親方たちの会話ではなく、風車の情景にしてほしかった。