ある部門の新入社員5人だけが入社後3カ月もたたないうちに退職した。私は部門のリーダーに理由を聞いた。彼は「自分の指導力不足、社員に要求しすぎ」などと答えた。だが口先だけで反省の色は感じられない。反省も自己改善もないなら、同じ結果を繰り返すだろうと私は思った。
本当に優れた企業人は、現状をいつも不十分と考えている。常に反省して具体的な対策を考え、それを強化している。自己改善の姿勢が身についているのだ。その背景には、自分自身に対する要求の高さがある。企業人生は挑戦の連続だ。だから目標を達成しても、それを終点にしない。常に改善を進め、将来の自分に投資する終わりのない挑戦を繰り返す。その過程で成果は自然に生まれる。因果倶時だ。
寓話を紹介しよう。
黒帯を与えられることになった武道家が、師範の前でひざまずいた。苦しい修行の末、ようやく頂点に立てるのだ。
「もう一つ最後の試練がある」と師範は言った。「準備はできています」もう1回試合をするのだと武道家は思った。
「大切な質問に答えてもらう。黒帯の本当の意味は何か」
「旅の終わりです。これまでの厳しい修行に対する当然の褒章です」
師範は押し黙り、しばらくたって口を開いた。
「まだ黒帯は与えられない。一年後にきなさい」
その言葉通り一年後、武道家は再び師範の前にひざまずいた。
「黒帯の意味は何か」
「武道で卓越した技を持ち、頂上に達したことを示すものです」
師範は続く言葉を待った。言葉がないとわかると、師範は口を開いた。
「一年後にきなさい」
一年たち、武道家はまた師範のもとへ。師範は同じ質問を繰り返した。
「黒帯の意味は何か」
「黒帯は出発点です。常に高い目標を目指し、終わりなく続く修行と稽古の旅の出発点です」
「ようやく黒帯に値するようになった。修行はこれから始まる」