• 生物多様性レポート
  • 生物多様性を維持していくために私たちに何ができるのか、その可能性を探るコーナーです。

好きでも嫌いでもいい、まずは関心を

兵庫県伊丹市にある緑豊かな昆陽池(こやいけ)公園。園内の池のほとりにたつ伊丹市昆虫館は、身近な昆虫と触れ合える施設だ。
チョウ温室では、南国の花々の中を約14種1000匹のチョウが飛び交う。館内には昆虫界を拡大したジオラマや標本、図書コーナーなどがあり、自然の 環境について楽しく学べる。

こうした施設で働く学芸員は、いわば「昆虫博士」。虫好きが高じて研究者の道を選んだように思うが、同館の長島聖大さんは少し違う。かつては昆虫 が大の苦手だった。
高校時代、学校に「クサギカメムシ」が大量発生した。天井には常に20〜30匹止まっていて、ときどき教科書に落ちてくる。調理実習の際、炊飯器の中 にも混入しているのを見て「カメムシを絶滅させる」と誓った。
その後、農薬を開発しようと、東京農業大学農学部に入学。まずは相手を知るため、毎日カメムシを採集し図鑑で名前を調べることから始めた。調べてみると、それは思いのほか面白かった。それぞれ特性があり、新種も見つけた。そして「カメムシを絶滅させると、それを餌とするスズメやイタチなどの動物の生態系バランスをも崩すとわかったんです。そこから卒業後は生物の魅力を伝える学芸員の道に進みました」。

伊丹市昆虫館の長島聖大さん。学芸員になったきっかけは、「カメムシ根絶の決意」を抱いたこと。
その研究を進めるうち、いつしか生物の魅力を伝える“昆虫博士”の道を進んでいた。

ここでは環境省と、絶滅危惧種の繁殖を試みている。例えば、野生では小笠原諸島にしか生息していない甲虫「オガサワラハンミョウ」。2000年ごろか ら「グリーンアノール」という外来種トカゲの定着により個体数が激減し、現在は絶滅の危機に瀕している種である。
だが、その繁殖に成功しても安易に元の環境に放すことはしない。人工飼育による近親交配などの影響が出るおそれがあるためだ。それは野生で生きていけないだけでなく、人為的に生態系を変化させてしまう可能性もある。
同様に長島さんはカブトムシの飼育を通じ、子どもたちに生物多様性保全について伝える。守ってもらうのは、①死ぬまで飼う②(やむを得ず飼えない場合)元いた場所以外に返さない③特定の昆虫が増えたらどうなるか考える││の3つ。「カブトムシは簡単に繁殖できますがケンカが強いため、樹液を求めて集まるほかの昆虫を跳ね除けてしまう。人間が大量に飼育した昆虫を自然に返すのは、生態系の破壊につながります」。

私たち大人も意識を変える必要がある。まだコンテナ置き場などでしか発見されないヒアリだが、一旦定着すると根絶できないといわれる。そうなれば芝生で寝転んだり、外でスポーツすることもままならないなど、人間の生活を脅かす。
「まずは昆虫に興味を持つ。好きでも嫌いでも構わない。過去の私のように嫌いだと感じるのも、相手に関心があるという意味なのだから」。小さな昆虫の世界にも複雑な多様性が存在し、それは動物や人間の生活にも影響を及ぼす。身近な昆虫と触れ合うことで、その重要性を知るきっかけになるだろう。

こぼれ話

長島さんが専門に研究する「カメムシ」は、独特の臭いを放つ虫として有名ですね。といっても、私はカメムシの臭いを嗅いだことがなく、どんな臭いなのだろうと反対に興味を持っています!カメムシは常に臭いを放っているわけではなく、危険が迫ったときの防衛策だいいます。
日本では1,300種以上のカメムシが発見されていて、キンカメムシというきらびやかなものから、サシガメという肉食のものまで存在します。しかし、そのなかで屋内に侵入し臭いを放つのはごく一部。大多数は臭いを放たないか、放ったとしても人間の嗅覚では感じないレベルだそうです。近寄ってみたらかわいらしい虫かもしれませんね♪

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