• 生物多様性レポート
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料理を通じて訴求 海のサステナビリティに関心を

Chefs for the Blue代表 佐々木ひろこさん

Chefs for the Blue代表 佐々木ひろこさん。

一般社団法人 Chefsfor the Blue( 東京都渋谷区)は、日本の海と水産資源を守るシェフ集団。同団体を立ち上げたのはシェフではなく、国内外のレストランを中心に食の最前線を伝えてきたフードライターの佐々木ひろこさんだ。
「2016年に流通まで含めた漁業の現状に接する機会があり、日本の漁業の危機的状況を知って衝撃を受けました。自分がフードライターでありながら、そうした現実を知らずに、世の中に伝えられなかったという自戒の念を込めて、付き合いのあるシェフ30人と一緒に、料理を通じて啓発活動を行うことになったのです」。
日本は北欧などのように厳正な漁獲枠を定めておらず、乱獲によって水産資源は減少している。さらに気候変動などで、魚が獲れる季節や地域も変わりつつある。
それでも、秋になればスーパーにはサンマが並び、私たちは旬を楽しむことができる。そうした文化を維持できるのは流通の発達による恩恵だが、確実に品質は低下しているという。
現状を知らず、思いのまま魚を食べ続けていると近い将来、シェフたちが使える質のいい魚がなくなってしまうという懸念を示す。そこで、佐々木さんはメディアへの出演やシェフを通じたSNSの配信のほか、海の現状を体験できるイベント(未来の海のレストラン)、トークセッションなどを開催し、消費者の意識改革を図ることで、持続可能な海の実現を目指している。
2019年10月に実施した「サステナブルシーフードセミナー」では、大学教授や鮮魚店、シェフなどから国内外の海や浜の現状のほか、将来への希望についても語られた。定員180人の枠には漁業関係者をはじめ、メディア、政治家、水産庁の官僚を含めた260人が参加し、漁業や飲食業に新たな気づきを与える機会となった。その反響の大きさから、海へのサステナビリティ(持続可能性)に関心が集まっていると、佐々木さんは実感している。さらに、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」に向けて、サステナブルな食材調達が進められているという後押しもある。国をあげてのイベントを、世の中の仕組みが変わるチャンスだと捉えているようだ。

大きな反響を呼んだ「サステナブルシーフードセミナー」。

佐々木さんは以前、イギリス人を日本のスーパーに案内した際、産卵期の魚や稚魚などを除外した正しい規制のもとで獲られた魚かどうか確認されたことがあった。質問をしてきた相手は一般の主婦だったが、それは海外でサステナビリティについて認知されている証拠。一方、日本のスーパーでは、そうした認証を得た魚を購入できる選択肢すら少ない。
現状を打破するには、まず消費者が海の危機的状況を知り意識を変える必要がある。「皆さんにお願いしたいのは、水産に関するニュースに目を向けること。今、水産は世の中の関心が薄く、大手新聞社にも専門記者はほぼいません。しかし、日本に昔からある魚食文化が途絶えてしまうのは惜しい。消費者の意識に応じて、おのずと小売り・流通・生産の意識は変わります。その結果、水産資源は回復すると信じて活動を続けます」。

こぼれ話

記事でも紹介した「未来の海のレストラン」は、2019年9月11日、株式会社Tポイント・ジャパンとの共催イベントとして開催されました。そこでは海の絶望と希望を体感できる1日限りのレストランがオープン。コースは「序章」「絶望の章」「希望の章」の三部で構成され、日本の海の現状と未来が料理で表現されました。
たとえばうな重とあさり椀のコースでは、うなぎがのっていないたれ重と、あさりの味が薄いお吸い物が提供されました。うなぎは密猟や乱獲によって激減し、あさりもかつての漁獲量から1/10以下に減っています。このままの状況が続けば、それらは絶滅の危機を迎える可能性があります。こうして実際の食事として提供されると、身をもって危機感を感じられますね。
しかし、暗い未来ばかりではありません。「希望の章」では、持続性を担保して獲られた魚や、環境に配慮して育てられた魚などを使用してつくられた海定食を提供。皆で美しい海を取り戻せば、引き続きおいしい食事を摂れるのです。本会はメディアのお客さまが中心だったとのことですが、今後は一般向けの会なども検討していくといいます。

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