• コラム
  • 環境市場新聞で取り上げたコラム記事をご紹介

送電網整備計画
――広域連系系統のマスタープランとは

2023年3月、電力広域的運営推進機関より「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」が公表されました。2050年までに最大7兆円規模の投資が見通されるこの計画。再生可能エネルギーの導入拡大を受け、送電網を強化していこうというものです。
その背景とプランの具体的な内容を見ていきましょう。



【目次】
送電網強化を実現する広域連系系統のマスタープラン公表の背景
全国を網羅する増強計画
増強計画実現に向けた具体的な取り組み
2050年カーボンニュートラルに向けた課題

送電網強化を実現する広域連系系統のマスタープラン公表の背景

送電網とは発電所でつくった電気を消費地まで運ぶ設備。国内の送電ネットワークは、全国を10エリアに分けた大手電力会社傘下の送配電会社(一般送配電事業者)がそれぞれのエリアを管理していました。
各エリアは、沖縄を除いて「地域間連系線」で結ばれてはいるものの、原則的にはそれぞれが電力を自給自足しており、大規模な電力のやり取りは想定されていなかったのです。

地域間連系線とは
異なるエリア(供給区域)の系統設備を相互につなぐ送電線のこと。これによりエリアを越えた電力融通が可能になる。しかし最近では一部連系線において空き容量が少なく、「ゼロ」となるケースも発生している。

こうした状況のなかで電力自由化によりエリアを超えた電力のやり取りが活発になりました。また2011年の東日本大震災後に首都圏を中心とする東日本が電力不足に見舞われた際は、連系線の容量不足により西日本から電力を送ることができず計画停電を余儀なくされました。
さらに今年4月には中部電力および北陸電力管内で太陽光発電などの発電を一時的に停止する「出力制御」が実施されました。これまで太陽光発電が盛んな九州エリアなどで主に実施されてきた出力制御ですが、ここ最近は全国各地で頻発しています。今回の中部電力管内での出力制御は、電力需要が大きい三大都市圏で初の実施となりました。

「再エネの出力制御」詳しい情報はこちら!

【特集】再エネの出力制御 ーー2種類の出力制御、その仕組みとは(サステナブルノート 2022年10月14日)
https://econews.jp/column/sustainable/7581/


太陽光をはじめとする再エネの活用が活発になり、また全国での電力融通の必要性が高まるなか、送電網の強化は、喫緊の課題となりました。そうしたなかで公表された本プラン。2025年カーボンニュートラルの実現を見据えて、強靭な送電網の構築に向けた長期展望と具体的な施策がまとめられたのです。

全国を網羅する増強計画

本プランでは、ベースシナリオとして各エリアをつなぐ連系線の新設・増強、またエリア内での増強などが計画されています。
大きなものとしては太陽光発電や風力発電の盛んな北海道から東北、東京をむすぶルートの新設。周波数の異なる東日本と西日本をむすぶ周波数変換装置(FC)の増強。太陽光のさかんな九州エリアと中国エリアのルート増強などがあげられます。

    広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)のベースシナリオ
          (電力広域的運営推進機関サイトより)
ベースシナリオとは
系統の増強は需要と供給のバランスを保つための施策であり、長期展望を検討するうえでは、将来起こりうるさまざまな不確実性を配慮する必要がある。このため、今回のプランでは幅を持たせた3つのシナリオが設定されている。ベースシナリオはその基本となるシナリオ。
【ベースシナリオ】政策誘導などにより、需要と供給のバランスが一定程度保たれていくことを考慮したシナリオ
【需要立地自然体シナリオ】需要と供給のバランスが大きく崩れたときのシナリオ
【需要立地誘導シナリオ】需要と供給のバランスが良好なときのシナリオ
電力広域的運営推進機関 広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)概要(2023.03.29)より抜粋

増強計画実現に向けた具体的な取り組み

上記で紹介した各エリアの増強計画実現に向けては、周辺環境の整備など解決していくべきいくつかの課題も見えています。個別の課題とそれに向けた動きを見ていきましょう。

■課題(1)
新設と並行した既存ネットワークの利用
現在計画されている送電網の新設など系統整備には多額の費用が必要となるだけでなく 10 年単位の多くの時間を要します。このため、再エネの導入拡大などを早急に進めていくためには、新設備導入と並行して既設設備の有効活用が必要です。
こうした背景を受け「日本版コネクト&マネージ」が検討・推進されています。「日本版コネクト&マネージ」とは、現在、日本で導入している「先着優先」(系統の空き容量の範囲内で先着順に接続契約を受け入れる制度)ではなく、出力制御など、一定の条件で接続を認めるなど、そのときどきの状況により系統の利用を管理していくというものです。

課題 (2)
ガイドラインを活用した高経年化設備の適切な更新
これまで系統設備の保全にあたっては、各一般送配電事業者がそれぞれの経験や知見を踏まえて個別にその必要性を判断してきました。しかし今後、さらなる高経年化が進むなかで、国民負担を抑えつつ設備を計画的に更新していくためには、設備更新に関する手法の統一が必要となります。電力広域的運営推進機関では、10エリアの事業者が共通の指標を用いて適切に、また合理的な設備更新ができるようガイドラインを策定しています。

課題 (3)
電源開発動向調査などを踏まえた整備計画の必要性
全国の各エリアが途切れることのない強靭な送電網整備を実現するためには、今後も導入が見込まれる電源の状況などを踏まえながら、増強の規模やタイミングを見極めていく必要があります。また新たな知見によっては、将来の最適な系統構成も変わっていく可能性があり、綿密な計画とあわせて、電源開発動向調査などを通した柔軟な整備計画が必要です。

2050年カーボンニュートラルに向けた課題

以上のように、全国を横断的に見据えた送電網整備計画が動き始めました。しかし、2050年カーボンニュートラルに向けた再エネのさらなる活用、また電力の安定供給の実現は、送電網の強化だけでなしえるものではありません。
たとえば蓄電池の導入促進、水素発電といった次世代エネルギーによる地産地消の促進など国をあげたエネルギー政策が平行して進んでおり、こちらも注目です。さらに企業や家庭単位で取り組むことができるDR(デマンドレスポンス)活用による需給バランスに合わせた電力使用や、省エネ・節電など。一人ひとりのかかわりが未来の日本を形成してくともいえますね。

DR(デマンドレスポンス)の情報はこちら!

上手な電気の使い方で再エネ元気 解説 | 上げ下げデマンドレスポンス(エコニュース 解説コラム)
https://econews.jp/column/5570/

〝上げ下げデマンドレスポンス〞有効利用されない再エネの活用を広げ、主力電源化へつなぐ(エコニュース Techno’s Thinking)
https://econews.jp/column/thinking/4187/

【参考資料】
広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)【概要】

関連記事一覧