• 環境政策最前線
  • 再生可能エネルギーの活用や供給システムなど、環境政策を早稲田大学の横山隆一名誉教授が解説します。

地域マイクログリッドと配電事業制度
災害対策など多様な分野へ広がる期待

 経済産業省と環境共創イニシアチブは2019年度から「地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業費補助金」(地域マイクログリッド構築事業)を進めてきた。補助金の交付などによって対象の事業者を支援するものだ。対象は、地域内の再生可能エネルギー(再エネ)発電設備と大手電力会社(送配電事業者)の系統線などを活用して、災害時にも自立した電力を供給できるような「地域マイクログリッド」を構築する事業である。
 地域マイクログリッドとは、平常時には再エネを効率よく利用しながら地域内の需給状況を把握しておき、非常時に外部系統からの供給が途絶えたとしてもエネルギーの自給自足ができる送配電の仕組みである。
 そのエネルギー供給源には、分散型電源である太陽光、風力、バイオマスなどが利用される。だが、それらの分散型電源はエネルギー出力が不安定なため、需要に適合させるのが難しい面もある。そこで、供給を安定させるため、情報通信技術を利用したエネルギー管理システム(EMS)の設置が対象事業の要件にもなっている。
 そして2022年度から、この地域マイクログリッドをさらに発展させる可能性を持つ「配電事業制度」が始まった。大手電力会社が大部分を運営する送配電網のうち、「配電網」の運用ライセンスを新規参入事業者へ付与する制度である。
 配電網を新規参入事業者が譲渡・借用・購入できるようにすることで電力のコスト低減や安定供給を図るのが狙いだ。これまでの地域マイクログリッドは大手電力会社保有の配電網を活用する形態だったが、この制度により、いわば自営線としての利用が可能になる。
 配電事業制度の議論が始まったきっかけは2つ。1つは2018年の北海道胆振東部地震の影響で北海道全域に起きた大規模停電。もう1つは、2019年の台風15号で約93万戸の停電が関東広域で発生し、千葉県内で送配電設備損傷による停電が長期化したこと。
 配電事業制度は、マイクログリッドを軸にした再エネ有効活用と電力の安定供給だけではなく、地域の自然災害対策をはじめ多様な分野に刺激を与えるだろう。他業種参入による配電網管理への新たなイノベーションの創出、地域新電力の再エネ提供による地元企業の脱炭素化、さらには環境改善、産業育成、雇用創出にもつながると期待されている。

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