【第5回】豊かな自然環境を次代へ/鳥取県東伯郡北栄町

早期着手の環境活動

 鳥取県の中央部に位置する東伯郡北栄町は面積の7割が田畑や山林。豊かな自然に囲まれた自治体だ。この恵まれた自然環境を後世に残すべく、こどもエコクラブ・ペットボトルキャップ回収といった住民活動の展開、リサイクルステーションの設置、公用車燃料への廃食用油活用など、早くから環境保護に努めてきた。
 「北栄町は2005年に北条町と大栄町が合併してできた自治体です。その当時から2021年まで長く町長を務めた松本昭夫さんは環境への意識が高く、さまざまな取り組みを実施してきました。その活動が認められ、2009年には〝循環・共生・参加まちづくり表彰(環境大臣賞)〞を受賞しています」(環境エネルギー課地域エネルギー推進室室長山本幸司さん)

契機は風力発電所建設

 北栄町が、地域の環境を守り、温室効果ガス排出削減への取り組みを強めるきっかけとなったのは北条砂丘風力発電所の建設だ。自治体直営としては国内最大規模。1年を通して比較的強い風が吹く特性を生かし、2005年に運転を開始した。風の力による再生可能エネルギー(再エネ)で年間約2万3000メガワット時の電力をつくり出す。これは一般家庭のおよそ6600世帯分の使用量に当たり、町の全4985世帯の需要を上回る(ここでつくられた電気は全量を中国電力に販売している)。「運転を開始したのは再エネの固定価格買取制度(FIT)がスタートする7年前です。かなり早期の取り組みでしたが、環境保護に積極的な町の象徴であり、現在も町の財政に貢献しています」(同室主幹手嶋仁美さん)

北条砂丘風力発電所。写真のような風車が計9基稼働している。

省エネと電力の地産地消

 現在、啓発や普及に力を入れているのは省エネの取り組みだ。
 「例えば、効率的に冷暖房を使用するのに建物の断熱が有効といった知識を広め、町有施設で実際にそうした省エネ改修を実行し、民間の建物でも進めてもらえるように補助金制度を用意しています」(山本さん)
 さらに今後は隣接する琴浦町と湯梨浜町の3町合同で設立する「鳥取中部地域新電力(仮称)」を通じ、電力由来の温室効果ガス削減を図る。すでに中核事業者も決まり、早ければ2022年春にも事業を開始する予定だ。電力の地産地消を実現するために町有施設への太陽光発電の導入や、FITの買い取り期限を迎えた太陽光発電からの電力購入などを通じ、2050年のゼロカーボンを目指す。まずは町有施設への売電などから始め、2027年ごろまでに地元産の電力比率を50%まで高め、3町約1万6000世帯のうち約1000世帯へ電力を販売していきたい考えだ。
 「地域に産業を形成し、収入が見込める新電力に期待しています。今後は新たな知見を生かしながらブラッシュアップしていき、脱炭素実現の一翼を担ってほしいですね」(山本さん)

こぼれ話

FITの7年も前にスタートした北条砂丘風力発電所。しかし、メンテナンス費用が当初想定していたよりもかさんだため、運営は困難を極めたそうです。町営事業で収支も公表しているため、町民から打ち切りを求められる可能性もありますが、事業をやめるにしても撤収費用が掛かります。同町にとっては環境保護の象徴である反面、ともすれば厄介な存在とみられていたようです。
その後東日本大震災が発生し、再エネを高く買い取るFIT制度が出現しました。これにより本発電所は一転して町の財政に大きく貢献することになります。再エネに舵を切っていたからこそ制度が活用できたわけですから、先見の明があったといえるでしょう。

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