【第2回】水素を軸に新たな未来を拓く/山梨県

豊かな自然環境を後世に引き継ぐ

 2009年に策定した山梨県地球温暖化対策実行計画において、概ね2050年に「CO2ゼロやまなし」の実現を目指すとした山梨県。以来、対策を進化させながら温暖化防止に取り組んできた。その環境行政の根底には「風光明媚で自然豊かな山梨の地を後世に引き継ぎたい」という県民に共通した思いがある。
 近年、地球温暖化の影響はさまざまな場面で実感されるが、山梨県も例外ではない。地場産業のブドウ栽培では巨峰などの品種で、夏季の高温に起因する着色不良が増えており、県の農政部では、新品種や着色向上技術の開発などを行ってきた。こうした日々の環境変化は県民に危機感をもたらしており、温室効果ガス削減へ向けた大きな推進力となっている。
 「温室効果ガス排出量は順調に削減しており、2018年度は、2013年度比16.7%の減少で、2020年度の目標の18.0%削減が目前です。成功の要因は県も企業も県民も、温暖化に強い危機感を持ち、それぞれが主体的に取り組んできたためです。産業部門では、環境負荷の低いエネルギー源への転換が進んでいます。また自社の屋上などに太陽光発電設備を設置し、自家消費する事業者も増えています。さらに、〝やまなしクールチョイス県民運動〞の呼び掛けといった活動が功を奏し、家庭の二酸化炭素(CO2)排出削減も成果を上げています」(環境・エネルギー課課長補佐森田智子さん)
 山梨県は、政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受け、今年2月に知事や市町村長、各界のトップで構成する「ストップ温暖化やまなし会議」を立ち上げた。そこでは、県内の27市町村すべてが2050年にゼロカーボンシティを目指すとする宣言も行った。県内の全自治体が、この宣言を行ったのは全国で山梨県が初となった。

電力貯蔵技術研究サイトがある米倉山全景

水素を軸にゼロカーボンを推進

 今後の温暖化対策で主軸に据えるのは水素だ。「やまなし水素エネルギー社会実現ロードマップ」に沿ってさまざまな取り組みが進んでおり、その1つが、県有地・米倉山の電力貯蔵技術研究サイトである。県と民間企業が共同で、太陽光由来の電力を活用してCO2フリーの水素を製造し、貯蔵・運搬、エネルギー源として利活用する「P2G(Powerto Gas)システム」を研究している。「2021年度には、県内の工場やスーパーに実際に水素を運搬し、利活用していただく社会実証が始まります」(森田さん)。
 農業が盛んな山梨県ならではの温暖化対策も進む。例えば果樹園で剪定された枝。従来は焼却していたが、これを炭化し土に混ぜ込むことで土壌を改善すると同時に大気中のCO2を地中に固定する4パーミルイニシアチブに取り組む。農政部の農業技術センターが中心となり効果を検証中だ。今後はCO2削減農法による果物などのブランド化も検討している。
 2050年カーボンニュートラルに向け、山梨県はこれからも地域の特性と強みを生かし、取り組みを進化させていく考えだ。

4パーミルイニシアチブ
土の中の炭素を毎年4パーミル(4/1000)増やして大気中のCO2増加を相殺し、温暖化を防止する取り組み。フランスが提案し、多数の国や機関が参画している。

こぼれ話

 今回、初めての経験を2つしました。1つは、ネットのテレビ会議システムを利用したリモート取材。コロナ禍で取材件数自体が減るなか、電話取材は何度か行っていましたが、リモートシステムでの画面取材は初めてでした。もっとも、私たちも取材先もリモートに慣れてきた部分もあり、取材は比較的スムーズに進みました。
 もう1つは、未公開情報を事前に入手したこと。全国の自治体に先駆け、山梨県内の全市町村がゼロカーボンシティをめざすということは、取材時点ではまだ対外的に発表されていませんでした。
 情報の取り扱いは注意しておりましたが、環境市場新聞の校正中にテレビ・新聞などで山梨県の取り組みが発表され、「無事に公開したんだ」とこちらもホッとしました。

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