【第12回】日本一「あつい」都市が挑むゼロカーボン/熊谷市
暑さは貴重な地域資源
2018年に国内最高気温41.1℃を記録した熊谷市では、暑さ・熱中症予防対策を含めた温暖化防止対策に広く取り組んでいる。2020年度の温室効果ガス排出量は二酸化炭素(CO2)換算で223万7400トン。基準年の2013年度比で19.4%減った。
「排出目標達成のため、市を挙げて省エネを中心に環境配慮行動の推進、再生可能エネルギー(再エネ)への切り替え促進、市有施設におけるネットゼロエネルギービル(ZEB)化などに取り組んでいます。今後は、工場などの産業部門での排出量削減にも、さらに力をいれていく必要があると考えています」(熊谷市環境部環境政策課 主任 清水宏紀さん)
さらに夏の暑さを逆手に取ったPRを実施することで市民の意識向上も図っている。
「これまで“あついぞ!熊谷”をキャッチフレーズとした事業として“打ち水大作戦”への後援や“熊谷駅前広場冷却ミストの設置”といった暑いという地域の特色を生かした事業を進めてきました。“暑さ”を人情の“篤さ”気持ちの“熱さ”などと合わせて、これを貴重な地域資源として捉えることにした逆転の発想です。2007年に当時の日本最高気温を計測してからは、“暑さ対策プロジェクトチーム”を設置し、市民の健康と安全を守るために、“熱中症予防グッズ配布事業”や“涼しさ体感アート事業”など、熊谷オリジナルの暑さ対策に取り組んでいます」(清水さん)
スマートエコタウンの試み
熊谷市は2023年に「熊谷スマートシティ宣言」をし、さまざまなサービスのDX化を推進しているが、ここでもキーワードになるのは「暑さ」だ。「熊谷を暑さに負けない快適で活力のあるまちにしていくため、気象センサー活用によるシミュレーションの実施や、まちなかの暑い場所を伝えるヒートエリア表示、暑い道の迂回路および涼み処の表示などができるサービスを提供したいと考えています。それらはまさに熊谷市でしかできないIoTの活用方法だと思います」(環境政策課 主事 青木 健さん)。
さらに2024年中に「スマートエコタウン」のモデル街区を建設する。現在、市内でハウスメーカーの協力のもとゼロエネルギーハウス(ZEH)のモデルハウス4棟を建設中だ。
「竣工後は住民に協力いただきながら電気・ガス・水道・室温などのデータを収集し、水道光熱費およびCO2削減について検証します。これにより熊谷市で環境にやさしく健康で豊かな生活を送るには、どのような住まいが理想なのかを探っていきます。その検証結果をまとめ、将来的には熊谷版スマートハウスとして仕様を決定し普及促進を図る予定です」(清水さん)
「暑い」を逆手に取った熊谷の成長戦略。今後も新機軸を打ち出しながらゼロカーボンを実現していく。
こぼれ話
熊谷市は農業をはじめ工業などの産業が盛んで新幹線が止まる利便性の高い市ですが、荒川およびその支流の豊かな自然環境を身近に感じられる街でもあります。
同市の元荒川にのみ生息する希少魚・ムサシトミヨは環境省のレッドリストに載る絶滅危惧種。同市では生物多様性の重要性を訴える格好の教材としてムサシトミヨを活用した環境教育などを行っています。
そんな熊谷市で現在進むのがスマートシティ構想。ITを通じて市民と行政、市民同士が「つながる」利便性の高い街をめざしています。たとえば同市独自のポイント制度「くまポ」。これは「ちょっとお願いしたいこと」を手伝ってくれた人に、ありがとうの気持ちを込めて「くまポ」を渡すというサービス。たくさんの「くまポ」を持っている人は、それだけ周囲の人に感謝される存在ということなのです。面白い仕組みだと思いました。
暑さだけでなく豊かな自然や利便性など、さまざまな特色を生かしてPRするのが上手だと感じた今回の取材でした。
日々2児の子育てに奮闘するお父さん。
自然と触れ合うのが何よりも好きです。