• エコな営みいまむかし
  • 循環型社会を実現していた江戸時代。江戸庶民のエコな暮らしをのぞきながら現代社会と比較します。

損料屋が支える物を持たない生活


 令和の今、一般家庭で引っ越しのときに持ち運ぶ荷物はかなりの量になる。それは昔の江戸庶民にとって想像もできない風景だろう。今回は人々が物をあまり持たなかった江戸時代に、欠かせない存在だった「損料屋(そんりょうや)」について紹介する。

江 戸

 江戸の町に暮らす庶民の家財道具は簡素だったといわれる。資源不足に加え住居の長屋は狭く、荷物を置くスペースが少なかったことと、度々発生する火事に備えてあまり物を持たない生活をしていたためだ。
 そんな中で重宝されたのが損料屋だ。損料屋とは鍋や釜といった料理道具から畳、布団のような日用品、旅に出るときは旅道具、冠婚葬祭の着物などの衣料品まで取り扱い、貸し出してくれる商売のこと。おかげで地方から江戸へやってきた行商人なども生活必需品を損料屋で借り、すぐに江戸での生活を始めることができたという。
 所有している家財道具が少ないため、引っ越しも非常に身軽で移転先の損料屋から家具を借り、立ち退くときに返却するというように宿替えは気軽に行われていたようだ。中には参勤交代で江戸詰めになった武士がクリーニング店代わりに損料屋でふんどしを借りていたという話もある。
 なんにせよ、焼失のリスクやスペースの都合から必要なときに必要なものを借りるほうが買うよりも合理的だったのだ。

損料屋は日用品などをレンタルする商売
冬には江戸庶民が、かいまき布団などを借りに損料屋を訪れた。
夏には蚊帳など季節ごとに必要なものを調達した。

令 和

 物にあふれた現代は大きなトラックでの引っ越しが一般的だ。ましてや鍋のような日用品まで借りて使うことはほとんどない。
 しかし成人式の振袖や袴のような晴れ着は、レンタルを利用する人も多い。また最近では書籍やDVDを、レンタルの進化版ともいえる定額サービスのサブスクリプションで楽しむようにもなった。
 所有した物を大切に長く使い続ける姿勢は、おろそかにすべきではない。ただ一方で、一度の使用で済むものなどはレンタルを考えてもいい。それは資源の有効活用という環境面だけでなく経済的なメリットもある。江戸庶民も購入するより賃料のほうが安かったのが損料屋に頼る大きな理由だったのだから。

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