サステナブルな漁業へ 水産資源をいつまでも

松田 裕之(まつだ ひろゆき)
横浜国立大学環境情報研究院教授。保全生態学、水産資源管理などに造詣が深い。日本生態学会第16期会長、水産資源・海域環境保全研究会会長、海洋政策研究所「海洋生物多様性保全と利用の研究に関する調査研究委員会」委員などを歴任。

サステナブル(持続可能な)社会の姿を学術研究の最先端から探っていく本コーナー。今回は日本の漁業のサステナビリティについて「横浜国立大学環境情報研究院 自然環境と情報部門」の松田裕之教授に話を伺った。

水産資源が大幅に減少

近年、環境問題の影響などから魚介の生息域変化や漁獲量の減少が起きており、管理漁業の重要性が指摘されている。横浜国立大学環境情報研究院の自然環境と情報部門は自然と人間の関わり方について科学的なデータ解析や環境評価手順をもとに、その最適な方法を探っている。
風力発電は現在、海岸線や洋上などに設置された3本羽根の大型プロペラで発電機を回す風車タイプが主流で、これは水平軸方式と呼ばれる。一定風向・風力が見込める場所で大量の電気をつくるのに適している反面、設備が大掛かりなうえ、騒音が大きく、風が乱れるため、市街地などへの設置は不向きである。
同学の松田裕之教授は知床の世界自然遺産登録時に科学委員会の一員として自然保護と漁業の両立を実現する「知床方式」を提案した1人。日本の漁業の動向について、クロマグロを例に説明してくれた。「クロマグロは2014年に国際自然保護連合から絶滅危惧種に指定され、国別漁獲枠の割当制度が始まっています。しかし日本は昨年(第2管理期間)の割当量をオーバーしてしまい、水産庁は資源保護のために導入しているTAC(海洋生物資源保存管理法に基づく漁獲可能量)をクロマグロにも適用し、罰則規定を設けました」。

松田教授のゼミから。持続可能な生態管理策について議論しているところ。

クロマグロは海外でも漁獲されるため国際ルールに基づき漁が行われている。最新の資源量推定によるとクロマグロは減少が食い止められ、増加に転じるとみられている。しかし国内市場はマグロやウナギ、フグなど一部の魚介に人気が偏りがちで、結果これらの天然物は10年前に比べ資源が大幅に減っている。
「水産庁の定めるTACは漁業実績を追認する傾向にあり資源管理の実効性は弱い。さらにTAC未指定の魚介は捕獲に歯止めがかかりません。資源量は漁業だけでなく海洋環境の変化にも左右され、それらも総合的に勘案する必要があるんです。サス テナブルな漁業の必要性は漁業従事者自身も理解しています。しかし漁業も経済活動であって、漁獲量が増えなければ利益は出ない。結果、漁業の現場では、保護より漁獲が優先されてしまうのが現実です」。

実情に即した資源保護

そうした状況を変えるべく登場したのが海のエコラベルといわれる「MSC(海洋管理協議会)認証」だ。環境に配慮して捕獲・加工された魚介に与えられ、最近では大手スーパーが積極販売を表明するなど、注目度が高まっている。今後消費者に価値が認められ、値段が高くてもMSC認証がある魚介を購入してもらえるようになれば、資源量回復の助けになっていくだろう。
さらに松田教授は「MSCの導入前から、漁業関係者の自主努力により資源回復が図られた事例はある」と述べる。
「例えば、京都のズワイガニは乱獲が問題となり、その対策として漁業者が自主的に保護区を設けて資源量を増やしました。漁の期間や漁場を厳しく定めるほか、一定基準を満たした漁獲物に漁港のタグをつけて信用度を高めるなど、高付加価値化にも成功しています。MSC認証だけでなく、漁業の実情に即し、個々の漁業者が納得して取り組める資源保護策を実行すれば、魚介類を絶滅に追いやらずに済むのです」。
ほかにも里海里山保全とセットで自主管理漁業を推進し、付加価値の高い魚介を提供する動きもある。松田教授らはそうした事例や研究成果をもとに漁業関係者との会合などで新たな漁業のあり方を提言している。私たち消費者にもできることはありそうだ。

こぼれ話

今回、お話を伺った松田先生は水産資源・海域環境保全研究会の会長を務めるなど、海の資源のエキスパートで、知床が世界自然遺産に登録されるときにその知見を生かし、交渉に当たりました。というのも、「自然保護と漁業の両立を図らないと世界遺産に登録はできない」とユネスコ側から勧告を受け、松田先生は専門家からなる科学委員会を設置し、自然保護と漁業が両立するモデルケースを提案。関係者の同意を取り付け、無事に世界自然遺産に登録されました。ちなみに認定時にユネスコは知床エリアに対し「科学的知識を遺産管理に効果的に応用しており、他の世界自然遺産地域の素晴らしいモデル」と賞賛されました。これも松田先生および関係者一同の努力の賜物と思われます。

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