社会の問題を実地で解決する「臨床環境学」

高野 雅夫(たかの まさお)
臨床環境学コンサルティングファーム部門長として地域住民・行政とともに中山間地の地域再生に取り組む。

サステナブル(持続可能)な社会の姿を学術研究の最先端から探る本コーナー。今回は持続可能な社会をともにつくる「名古屋大学大学院 環境学研究科持続的共発展教育研究センター臨床環境学コンサルティングファーム」の高野雅夫教授に話を聞いた。

悩みに寄り添い、一緒に解決

名古屋大学大学院環境学研究科では、理学、工学、人文・社会科学の3つの分野をつなぎ、問題解決型の新しい学問のあり方を探求している。その中で持続的共発展教育研究センターは、国際的な枠組みを意識しながら、地域での持続可能な社会づくりに力を貸す活動を行う。同センター内の臨床環境学コンサルティングファームについて高野雅夫教授に聞いた。
「環境問題に取り組むうち、医学のように患者さんの問題を解決するために仮説を立てて治療を行い、治癒を目指すという姿勢が必要だと痛感し、〝臨床環境学〞という考え方にたどり着きました。現在、それを実践しているところです。私たちのコンサルティングファームは、教員らが持つ専門知識やノウハウを生かし、地域の悩みに寄り添いながら、一緒に解決を図るという特徴があります」。
実際に地方の自治体が困っていることといえば「人口減」が真っ先にあがる。「公共交通をいかに維持するか」「若者の定住を図りたい」「公共施設の規模を適正化したい」。これらはいずれも実際に寄せられた相談例だ。これらの問題に建築や土木交通工学や環境学の専門家が一緒になって解決を図る。
例えば、同大学院と協定を結ぶ三重県松阪市では小中学校施設の今後について検討を重ねてきた。少子化が進む中でいかに適正な規模を保つか、地域コミュニティの拠点と複合化できないかなど、学区住民や教職員、保護者、生徒といった地元住民と自治体、そしてコンサルティングファームが参加してワークショップを開き、意見を出し合った。その結果、現在建て替え中の中学校では、校舎の一部を地域に開放し、公民館と学校が一体化したようなコミュニティ・スクールが計画されている。学校の運営は地域住民も積極的に関与するという。

実際に行われた住民らの意見交換会。

人口減はアジア全体の問題

日本は、今後さらなる人口減少時代を迎える。現実を直視し、できることのみ行うというシビアな姿勢も必要だ。例えば、交通網が維持できない過疎地域では、地域の住民組織が行政の支援を受けながら、独自にバスを運行することで問題を解決したケースもあるという。
「簡単ではありませんが、皆さんの悩みに寄り添い、一緒に解決策を模索することが重要だと思っています。それがつまり〝臨床〞です。そうして培った知見は、財産になります。今後はアジア全体でも人口減が進むと予測されています。少子化の進む中国の人口ピークは2030年で、その後は急速な人口減に見舞われます。そのほかの国でも似たような状況があり、そのとき、われわれのノウハウは必ず役立つでしょう」。
環境学研究科は、グローバルに活躍できる人材の育成にも力を入れている。ここにはローカルとグローバルを合わせた〝グローカル〞な視点があった。

こぼれ話

人口が減っても生活の質を落とさず、充実したものにどうするにはどうすればよいのか。難しい問題です。ただ、本コンサルティングファームの特色は、地域に入って共に活動すること。問題解決のために間に入って協力するので、最初は警戒していても親身に話を聞くことで、相手も信頼して本音を打ち明けてくださるそうです。
そして、お隣中国では今後、急激に高年齢化・過疎化が進むから、ここで得た知見は必ず役に立つというお話に、広いビジョンで問題に取り組んでいるのだな、と感じました。

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