豪雨の被害を未然に防ぐ

中北 英一(なかきた えいいち)
京都大学防災研究所の気象・水象災害研究部門で気象レーダーを用いた豪雨・洪水予測、気候変動による災害環境への影響評価に長年携わる。ハリケーン・カトリーナなどの国内外の災害調査にも従事。土木学会水工学委員会委員長なども務める。

サステナブル(持続可能)な社会の姿を学術研究の最先端から探る本コーナー。今回は京都大学防災研究所の教授で豪雨災害の対策について研究する中北英一さんに話を聞いた。

全国で豪雨の発生が増加

これからの時季は特にゲリラ豪雨や梅雨前線の集中豪雨に注意が欠かせない。2008年、兵庫県神戸市の都賀川では突然の出水で約50人が流され5人が亡くなった。そうした事故を契機とし、豪雨による災害対策に総合的に取り組むのが今回紹介する中北教授だ。
「温暖化で気温が上がれば大気が抱えられる水蒸気量は増えます。強力な台風や集中豪雨の発生回数、1回当たりの降雨量も増加します。北海道でも梅雨豪雨が発生するようになる。私たちは気候変動予測情報を基にダム再生や保水などの治水力向上、自治体のリスク管理システムコンサル、自助・共助の避難行動を促す知見や経験の共有などに取り組んでいます。将来を見据え、各所と連携しつつ精度の高い防災対策を立案しています」。
中北教授の専門分野は豪雨の早期探知と危険性予測。ゲリラ豪雨が発生した場合、河川への雨水流入は急速に増える。少しでも早い情報提供が住民の安否を分けるため、予測精度の向上とスピード化に取り組んでいる。
2008年の神戸の事故までは一般に予測に用いる降雨レーダーは主に地表を観測していた。事故当時、中北教授らは、大量の雨をもたらす積乱雲内の水分量観測が必要と考え、レーダー照射の立体化や精度向上を図っている最中だった。
「ゲリラ豪雨の被害防止には、積乱雲になる前の〝タマゴ〞段階での発見が重要です。そのために空間分解能力がより細かいレーダーを用いて垂直・水平方向に電波を発射し、戻ってきた電波を解析することで、積乱雲内の3次元の水分量を把握する研究を進めました。現在は高性能なレーダーが全国に配置され、以前よりきめ細かく、より正確な降雨予想ができるようになっています」。

ゲリラ豪雨が発生する様子を模したシミュレーション動画(山口・土橋・中北共同研究)。

より早期の豪雨予測へ

中北教授らは現在、観測技術を高度化し、より早期の危険予測ができないか試行錯誤している。
「従来よりも細かな粒子が観察できるレーダーの導入や、今発生しつつある積乱雲の中で、実際に何が起きているのかを調査する観測気球(通称:ビデオゾンデ)の活用、さらに大気中に水蒸気が多量に含まれると地上デジタル放送波の映像が遅れて届くという特性を利用した水蒸気観測手法など、新たな技術を組み合わせ、タマゴになる前の水蒸気段階から降雨量・地域予想を導く新技術の開発を多くの研究者と共同で進めています。まだ実験段階ですが、水蒸気が集まって豪雨が発生するまでの3次元シミュレーションは成功しています。今後は、どのような気象条件(天気・温度・風量・風向など)が重なると豪雨発生の確率が上がるのかを実地に検証し、5〜10年のスパンで予報技術として実用化していきます」。
最後に、一人ひとりが持つべき心がけについても話してくれた。
「今後は〝この場所でこんなに大量に降るとは考えもしなかった〞という降雨現象が各地で増えると思います。自治体の治水整備や国土交通省と連動した災害時情報提供など私たちもできる限りの対策を進めます。しかし、最後に自分の身を守るのは自分自身。日ごろの備えを怠らないようにしてほしいですね」。

こぼれ話

中北教授は災害発生時にNHKなどで解説を行う斯界の第一人者です。研究室を訪れると、早速マシンガンのようにご自身の研究内容を話してくださいました。そのあまりの情報量にこちらは圧倒されるばかり。取材を終え「いただいた膨大な情報を狭いあのコーナーにどうまとめようか…」と悩みながら京大大学院宇治キャンパスを後にしたのが昨日のようです。素人の私にもわかりやすく丁寧に解説いただいた中北教授に改めて感謝申し上げます。

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