• 環境政策最前線
  • 再生可能エネルギーの活用や供給システムなど、環境政策を早稲田大学の横山隆一名誉教授が解説します。

エネルギー危機を乗り切るための
石炭ガス化複合発電の活用

 天然ガス価格はロシアによるウクライナ侵攻により一気に高騰した。欧州諸国ではロシアからの化石燃料の輸入禁止を進め、価格高騰が続いている。2022年9月にはドイツ政府が脱原発の延期を発表した。当初計画では年末に最後の3基を運転停止し、脱原発を完了する予定だったが、2023年4月まで2基を運転できる状態に待機させておくという。今冬はそれで乗り切り、今後は脱炭素のため停止している石炭火力も復活させる。エネルギー危機は、脱原発・脱石炭の政策変更を余儀なくさせる状況に世界を追い込んでいる。
 「脱」という言葉が示すようにクリーンなイメージが少ない石炭火力だが、環境負荷を改善する技術が実用化されているのも事実だ。
 固体の石炭をガス化しガスタービン(GT)と蒸気タービン(ST)を組み合わせて稼働する石炭ガス化複合発電(IGCC)もその1つ。従来の石炭火力の発電効率約42%に対し商用段階のIGCCは48〜50%と高い。しかも二酸化炭素(CO2)排出量は石油火力とほぼ同じ、SOx・NOx・煤塵の排出量はLNGコンバインドサイクル発電と同等だ。従来の石炭火力では利用の難しい灰融点の低い石炭が使えるので利用炭種の拡大にもつながる。
 広島県の大崎発電所では2017年から、より高度なIGCCの実証運転を行っている。酸素吹き実証機(空気吹きよりも高カロリーのガスが発生し高出力化しやすい)によるものだ。
 実証機の石炭ガスは、まず精製設備で環境基準などに適合するよう処理され「精製ガス」として複合発電設備に送られる。精製ガスは燃料となってGTを回し発電する。その際に発生する熱は排熱回収ボイラー(HRSG)で回収され、水と熱交換することで蒸気を発生させ、その蒸気でSTを回し、ここでもまた発電を行う。HRSGには高温の石炭ガスを冷却する際に発生する蒸気も合流させるのでより効率的な発電が可能だ。
 すでに稼働しているIGCCもある。東京電力は2014年5月、常磐共同火力勿来発電所と広野火力発電所の2ヵ所構内に世界最新鋭の大型石炭ガス化複合発電設備の建設計画を発表。その後、勿来は2021年4月、広野は同年11月に商用運転を開始している。
 IGCCは、目前に迫るエネルギー危機の当面の解決策の1つとして期待されている。

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