小水力発電が拓くエネルギー「地産地消時代」

小林 久(こばやし ひさし)
茨城大学農学部地域環境科学科教授。全国小水力利用推進協議会理事、いばらき自然エネルギーネットワーク代表。著書に『再生可能エネルギーと地域再生』など多数。

大きくない発電にも意味がある

再生可能エネルギー(以下再エネ)の利用が進む中、注目を浴びているのが小水力発電だ。資源エネルギー庁によればFIT(再エネ固定価格買取制度)実施後、昨年9月まで全国で219件の発電所(1000kWh以下・エネルギー庁ウェブより)が生まれている。これは桁違いに多い太陽光を除いた再エネ電源では最も増加数が多い。
確かに小水力は太陽光に比べれば初期コストが高い。しかし回収まで視野に入れてコストを比較すれば、大いに有望な発電形態なのだ(※1 参照)。
茨城大学農学部教授で再エネや小水力発電等を研究する小林久氏は「小水力は大規模なダムを伴う水力に比べ小規模であるがゆえに、地域を変える可能性を持っている。『水』という日本人が身近に接し、大切にしてきた資産を活用することは、サステナブル社会の構築に大きな役割を果たすだろう」と話す。

日本人が大切に守ってきた「水」

地域の資産である「水」を活用し、発電する意味を小林教授はこう説明する。
「まず、市民のエネルギーへの関心が高まる。たとえば水資源の豊富な山梨県都留市では、2004年に市役所前を流れる家中川に水車発電施設(※2 参照)を設置したが、資金調達に日本で初めて住民参加型の公募債を活用した。市民は公募債を購入することで地域のクリーンなエネルギー創設を援助するという意思表示ができるわけだが、募集口数に対し3倍以上の申し込みがあった。現在、市役所の電気使用量の約6割を小水力発電が担っている」
その他にも地方の農村で、燃料高による離農防止のために、農業用水を活用した発電装置を導入し、その電力をビニールハウスの暖房に役立てたケースなどがある。小水力発電がコミュニティの維持に役立ったのだ。

「水脈」を掘り当て、エネルギーデザインに生かす

小水力発電の課題は、農業用水や河川用水などを使用する際の水利権を巡る交渉だ。また、ごみや雪などによって水路が詰まらないよう、きめ細かな管理も必要になる。ただ、これらの課題は法整備と技術進歩によって徐々に解消されつつある。
「たとえば30~40戸の集落で20kWhクラスの小水力発電施設が1つあれば、ベースロード電源として活用でき、現在の系統電力への依存度は大幅に低下します。再エネ普及のためにFIT制度が存在しているわけで、当初はこれを活用するのもありでしょう。そして固定価格での買取期間(20年)を終えた後は、エネルギー地産地消が実現します。今ある資源を有効に生かすことで化石燃料等への依存度を大幅に下げ、地球環境の保全に役立つのです。ただ、実現のためには利害関係者たる地域住民各自の主体的な意思が重要です。”お上にやってもらおう”と思っているうちは実現しません。大切なのは”自分らの将来はこうしたい”と考えることです」(小林教授)
地球環境保護の観点からみても、小水力発電の担う役割は大きい。そして小水力発電は、地域の振興やコミュニティ維持に関しても大きなポテンシャルを秘めている。

※1 買い取り価格および販売額は税別。① 200kWh以上1,000kWh未満、② 200kWh未満。
総合資源エネルギー調査会作成「各電源の緒元一覧」をもとに作成。

※2 家中川で発電する都留市役所の発電所「元気くん1号」(都留市役所提供)

こぼれ話

紙面の都合で触れられなかったその他の小水力発電の事例をご紹介します。
●都市部の上水道の原水をただ流すのでなく、間に発電装置をかませ、常時120kWhの発電を実現した千葉県水道局の「妙典発電所」
●トンネルを掘ったら湧き水が出たので、これを利用し、50kWhの発電を実現した山梨県の「若彦トンネル湧水発電所」
●帝国ホテルで実現した空調の循環水を利用した3kWhの発電システム等々。
規模の差はあれど、現在、小水力発電は日本の各所で実現しています。位置エネルギーを発電のエネルギーに変えるのが水力発電の特長。環境への負荷が低いので、まさにサステナブルなシステムです。
今後もサステナブルな社会の構築に向けた学術研究の最前線を紹介してまいります。どうぞご期待ください!

関連記事一覧