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森と日本人の1500年

森をつくったのは自然ではなく人だった

 もう花見は済んだだろうか。国内に多数あるサクラのうち7~8割は一斉に咲き10日ほどで散る品種ソメイヨシノだという。悠久の昔から日本を代表する花として愛でられてきたかに思えるが、本書ではそこに疑問を呈する。ソメイヨシノの品種が広まったのは明治から大正にかけてで、これほどまでに増えたのは昭和に入ってからだろうと。
日本にある豊かな森林も太古から続くものではないと示す。現在、約67%ある森林率(国土に占める森林の割合)は、明治初期には約45%だったようだ。
サクラや森林の風景には一見、自然のたくましさを感じる。だがそこには人による意図的な造作が多分にあると教えてくれる一冊。邪馬台国の時代から現在まで森林を変容させた日本人の行いが記されている。
その足跡を踏まえ、では、これからどんな森林をつくるべきか。著者はそこに「美しさ」をあげる。美しいと感じられる森林を思い描き、その未来図に近づける。歴史上、よかれと考え実施した政策が、森林の荒廃を招いた例は多くある。理論も必要だが感性を信じる姿勢も大切にしたい。「人が美しく感じるのは、五感で得る情報を無意識に解析して、草木が健全に育ち、生物多様性も高いと読み取った結果の感覚と思える」(225ページ)。

平凡社 780円+税
田中淳夫 著
1959年大阪府生まれ。
静岡大学農学部林学科卒業。出版社、新聞社等を経て森林ジャーナリストに。著書に『日本の森はなぜ危機なのか』『田舎で起業!』『田舎で暮らす!』『森林からのニッポン再生』『森林異変』(いずれも平凡社新書)、『割り箸はもったいない?』『ゴルフ場は自然がいっぱい』(ともにちくま新書)、『森を歩く』(角川SSC新書)、『いま里山が必要な理由』『森と近代日本を動かした男 山林王・土倉庄三郎の生涯』(ともに洋泉社)など多数。

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