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招かれた天敵 生物多様性が生んだ夢と罠|エコブックス

害虫防除に挑む闘いの歴史と功

 

 最後まで読まず途中のまま放って置かれる書籍は多い。もしそうした傾向がある人は、この本だけは、ぜひ最終章から読んでほしい。凡百のサスペンス小説をしのぐ緊迫感とともに、人間をあざ笑うかのような途方もなく複雑な自然の力や環境問題への対応の難しさが胸に深く刻まれるからだ。前の章の情報を受けた内容がぼんやりした理解になっても勢いで40頁ほどに目を通せば、きっと最初の章に戻り1冊を通読したくなる。
 著者は2017年の『歌うカタツムリ』で毎日出版文化賞を受けた進化生物学者。本書では農作物を荒らす昆虫やはびこる雑草などのいわゆる有害生物と、その制圧を目指す生物研究者たちの闘いの歴史を詳述している。彼らが用いた武器は防除する有害生物の「天敵」で、多くは離れた地域から持ち込む外来種。アメリカで農作物を害するアブラムシの対策に、それを食べる日本のテントウムシを導入するといった方法である。
 だが当初は一定の効果はあるものの、やがて導入生物が大発生て新たな害虫になったり、貴重な在来種を絶滅させ生態系を破壊するなどの事態を招く。「薬品を使わない、自然を活かした、〝エコな〞対策の失敗が招いた、恐るべき結末である」(370頁)。
 そして最終章で語るのは著者自身が参加した害虫防除の命懸けともいえる闘いだ。



みすず書房 3,520 円(税込)

千葉聡 著
東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学大学院生命科学研究科教授(兼任)。1960年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。静岡大学助手、東北大学准教授などを経て現職。専門は進化生物学と生態学。著書『歌うカタツムリ──進化とらせんの物語』(岩波科学ライブラリー、2017)で第71回毎日出版文化賞・自然科学部門を受賞。ほかに、『進化のからくり──現代のダーウィンたちの物語』(講談社ブルーバックス、2020)、『生物多様性と生態学──遺伝子・種・生態系』(共著、朝倉書店、2012)などの著作がある。


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