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北極がなくなる日|エコブックス

純白だった地球のてっぺん、今は青

北極がなくなる日

「アポロ8号の宇宙飛行士が撮影した(中略)球体の両端は純白だった。現在、北半球が夏の季節だと、宇宙から地球のてっぺんは白ではなくて青に見える。かつては一面氷で覆われていた場所を、人類は大海原へと変えてしまったのだ」(12頁)。さらに、北極の氷の厚さの平均値は20年ほどの間に4割以上も薄くなっていると著者は指摘する。かつて海中に50m以上も飛び出していた海氷の突起も、今では最大1.5mしかないと、自らが目にした危機的な状況をつぶさに披露する。
著者は海氷研究のスペシャリスト。長年、氷を砕きながら進む海洋調査船での観測、極寒の地で氷に穴を開ける計測作業、海氷を下から調べるための潜水艦への搭乗といった実地の調査を続けてきた。本書では、海氷の生成・融解のシステムや地球温暖化の科学的解説とともに、そうした厳しいフィールドワークの様子も語られている。  現在、北極海の海氷は太陽のエネルギーを6割反射させているが、それがなくなれば反射率は1割に下がる。海氷の消滅は、海底にある永久凍土の融解を促し、たまっていたメタンガスを大量に噴出させる。二酸化炭素より23倍も温室効果があるメタンガスは、温暖化を大きく加速させる。北極で起きている事象は人類にとっての脅威なのだと、著者は警告している。

原書房 2,400円+税
ピーター・ワダムズ 著/武藤崇恵 訳
1948年生まれ。1987年~92年、ケンブリッジ大学スコット極地研究所所長、92年~2015年、同大学海洋物理学教授。日本の国立極地研究所、米国の海軍大学院、ワシントン大学等での客員教授も務める。W・S・ブルースメダル、極地メダル受賞。王立地理学会のフェロー、フィンランドアカデミーのメンバーでもある。

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