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これが見納め 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く|エコブックス

笑いをちりばめた生きものとの対面記録

 税関での理不尽な足止め、懐柔できそうもない堅物の監視員、運転中に足元に潜り込みクラッチを手で操作するタクシー……そんな滑稽なハードルを乗り越え、絶滅の危機にある世界の動物を観察しに行く珍道中レポート。進化生物学者のリチャード・ドーキンスが寄せた序文には、この本で笑わずに読めるのはたぶん1ページもない、とある。
 1979年発表のユーモアSF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』の著者、ダグラス・アダムスと動物学者のマーク・カーワディンがキタシロサイ、アイアイ、コモドオオトカゲなど野生の絶滅危惧種のもとを訪れ、それをイギリスBBCのラジオ番組として収録し、同時に書籍化した。
 原書の刊行は1990年。2011年に単行本で邦訳され、2022年11月に文庫版が出版された。原書刊行から30年以上たつので情報は古くもあるが、ユーモアの向こうに垣間見える訴えかけは今も胸に響く。そして巻末には登場した絶滅危惧種の最新情報も載せてある。長年読み継がれ、今後も一定以上の評価が続くとの判断が文庫版の刊行を後押ししたのだろう。
 予想外に多かった生息数に安堵した後の記述で「不安でならないのは人間のことだ」と人の愚かさを危惧し、生物保護の理由は、帯の惹句に引用する「かれらがいないと、世界は寂しい」からだと説く。



河出文庫 1,430 円(税込)

ダグラス・アダムス 著
1952-2001年。英ケンブリッジ生まれ。1978年BBCラジオドラマ「銀河ヒッチハイク・ガイド」脚本を執筆。翌年、同脚本を小説化し大ベストセラーに。モンティ・パイソンの脚本に携わっていたことも。

マーク・カーワディン 著
英国の動物学者。世界自然基金や国連の環境保護プログラムなどに加わる。『動物たちの地球』『完璧版 クジラとイルカの図鑑』『波間に踊るクジラを追って』ほか野生生物についての著書多数。

安原和見 訳
翻訳者。フィクション、ノンフィクションに多数の訳書があり。マティザック作品邦訳の多くを手がけている。他訳書に『B.C.1177』『ベリングキャット』『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズなど多数。


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