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里海資本論 日本社会は「共生の原理」で動く

人の手を加え、壊すのではなく生かす

 本書の中盤、スウェーデンで約20年前に開かれた内海に関する国際会議の様子が紹介される。「SATOUMI(里海)」という言葉や概念を、日本人研究者が初めて発表したときのこと。欧米の学者を中心に激しい非難の声が上がった。沿岸海域の豊かな自然環境は「人の手」が加わったが故に破壊された。それを再生するために「人の手を加える」とは何事かと。
だが現在、里海は「人手が加わることにより生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」と学術用語に定義されている。英語表記のSATOUMIも広く知られるようになった。瀬戸内海の里海の活動が大きな効果をあげ、世界が認めたからだ。今や里海は「海洋資源枯渇や汚染の問題を抱える世界中の身近な海の解決策になっている」(13頁)。
本書はその里海の取り組みをつぶさに追う。NHKの番組製作をもとに取材を進めた書き下ろし。カキの浄水能力で海を再生する、農家のように海草の種をまく、それが過密になれば間引く──そうした積極的に海とかかわる人たちの明るい姿を描く。最終総括の一文で「人と自然が手を携え、支えあい癒しあっていけば(中略)それぞれの命はもっと元気になる」(200頁)と訴える。

角川新書 800円+税
井上恭介/NHK「里海」取材班 著
1964年生まれ。京都出身。87年東京大学法学部卒業後、NHK入局。報道局・大型企画開発センター・広島局などを経て、現職。ディレクター、プロデューサーとして、一貫して報道番組の制作に従事。主な制作番組にNHKスペシャル「オ願ヒ オ知ラセ下サイ~ヒロシマ・あの日の伝言~」(集英社新書から『ヒロシマ 壁に残された伝言』として書籍化)「マネー資本主義」(新潮文庫から同名書籍化)「里海SATOUMI瀬戸内海」(角川新書から『里海資本論』として書籍化)などがある。広島局で中国地方向けに放映した番組をまとめた角川新書の『里山資本主義』は40万部を超えるベストセラーに。

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