第16回 COPが提唱する「気温上昇1.5℃以下」目標のもとでも、日本の平均気温は1.9℃上昇する

「日本の気候変動2020」を読み解く:地球の温暖化現象について気象庁は最新の科学的知見をまとめ、気候変動に関する影響評価情報の基盤情報(エビデンス)として使えるよう、『日本の気候変動』を発行しています。最新の知見が盛り込まれた本書の内容を紹介します。

本書の45Pに【コラム4】として、1.5℃の気温上昇に関する記載があります。1.5℃が話題になっている背景には、2015年に開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)以降、「世界的な平均気温上昇を工業化以前と比べ2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」という長期目標が示されたことがあります。
しかし、この目標を達成するには各国とも温室効果ガスを相当量削減する必要があります。2021年10月から11月にイギリス・グラスゴーで開催された直近 のCOP26では、国連に提出された各国の削減目標がすべて達成されても、世界の平均気温は1.5℃を上回るという予想が出ています。仮に2030年から2050年までの間に世界の平均気温が1.5度上昇した場合、本書は日本の気温上昇はさらに大きくなると予測されます(以下“”部分は『日本の気候変動2020年版』からの引用です)。

この地球温暖化は、日本においてどのような影響を与えるだろうか。気温は世界中で均一に上昇するわけではなく、地域性をもって上昇する。気象庁気象研究所の地域気候モデル(NHRCM24:Nosaka et al.,2020)の計算によると、世界の平均気温が工業化以前から1.5℃(現在気候※からおよそ0.8℃)上昇した場合、日本では、現在気候と比べて全国平均で約1.2℃上昇すると見積もられている。また、東京では年間の猛暑日の日数が、現在の平均5.6日から12日に増加すると予測される。なお、気温上昇が1.5℃に抑えられず2℃上昇した場合は16日、4℃上昇した場合は46日に増加すると予測される。
※編集注 現在気候:ここでは1981年~2010年の気候を指す。
本書45P

上記説明は現在気候(1981年~2010年の気候)と比べた日本の気温変化です。つまり、工業化以前から世界の平均気温が1.5℃上昇した場合、日本の気温は全国平均で1.9℃上昇してしまい、世界平均を上回ってしまうと予想されています。なお、COP26で話題になったように、現状の各国の削減目標がすべて達成されても、世界の平均気温の上昇は1.5℃を上回ると予想されています。対策が不十分だった場合、平均気温はさらに上昇し、たとえば平均気温が4℃上昇した場合、日本の猛暑日は46日に増加すると予測されています。想像を絶する暑さです。

また、平均気温の上昇は降水量、特に1日当たりの降水量に大きな影響を与えます。

地球温暖化により、年間の平均降水量には明確な変化傾向は見られないが、日降水量の年間最大値は増加すると言われている。工業化以前と比べて世界の平均気温が1.5℃上昇した場合、日本における日降水量の年間最大値は、現在よりも全国平均で5.7%、東京では9%増加すると予測される。なお、工業化以前と比べた気温上昇量が2℃の場合は、全国平均で8.4%、東京では12%、4℃の場合は全国平均で18%、東京では22%、それぞれ増加すると予測される。
本書45P

本コーナーの第1回では以下について紹介しました。
●世界と日本の年平均気温は、様々な時間スケールの変動を伴いながら上昇している。
●気温の上昇は一様ではなく、日本の年平均気温の上昇は世界平均よりも速く進んでいる。
●日本国内では、真夏日、猛暑日、熱帯夜等の日数が有意に増加している一方、冬日の日数は有意に減少している。

そして現在の状況はというと、残念ながら本書の指摘の方向に変化が進んでいると言えます。
気候変動はある時点を過ぎると取り返しがつかなくなってしまいます。環境変化に適応できない動植物が絶滅して生物の多様性が失われると、元に戻ることは二度とありません。
そうなる前に私たちには何ができるのか。重い課題が突き付けられています。

コラム 生物多様性がもたらすもの

いろんな生き物が生息できる環境は、生物多様性が豊かな環境と言えます。でもなぜ生物多様性は豊かなほうがよいのでしょう。
人類の発展は自然の豊かさによってもたらされました。人間の衣・食・住に関するすべての素材は地球上にあるものです。石器時代から現在の文明社会まで、人間は一貫して豊かな自然環境のおかげで繁栄してきたと言えます。
その自然環境は精緻なバランスの上に成り立っています。食物連鎖という言葉が象徴的ですが、地球上のあらゆる生き物がバランスを保ちながら生存しています。ところが自然の乱開発やその結果もたらされる地球温暖化などの環境変化が、さまざまな生き物の生存域を狭めているのが実情です。
2001年から2005年まで国連で実施されたミレニアム生態系評価によると、化石記録から計算した過去の絶滅スピードは、100年間で1万種あたり0.1~1種。しかし、ここ100年に限ると1万種あたり約100種もの生き物が絶滅しているそうです。記録されていない生き物を含めると、過去の平均に比べて絶滅の速度は1000倍以上。豊かな自然が地球上の各地で急速に失われているのです。
たとえば、ある微生物からウイルスのワクチンが開発されるなど、生物は多様であるがゆえに、人間も有効に活用できます。多様性が失われれば、こうした開発の枠は大幅に狭まります。
生物が多様であることは、人間の暮らしが豊かであることを意味します。人間にとっては、大勢の他の生物が生存していることが大事だと言えるでしょう。

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