第12回 桜の開花とかえでの紅葉・黄葉日は移動している(【コラム3】より)

「日本の気候変動2020」を読み解く:地球の温暖化現象について気象庁は最新の科学的知見をまとめ、気候変動に関する影響評価情報の基盤情報(エビデンス)として使えるよう、『日本の気候変動』を発行しています。最新の知見が盛り込まれた本書の内容を紹介します。

気象庁では総合的な気象状況の推移を知るために、植物の開花や紅葉・黄葉などの観測を実施しています。なかでも社会的に関心を集めているのが、桜の開花とかえで(もみじ)の紅葉・黄葉でしょう。本書の【コラム3】によれば、2020年は全国58地点で桜の開花を観測し、また51地点でかえで(もみじ)の紅葉・黄葉日を観測しています。その観測結果をみると、開花は早まり、紅葉・黄葉は遅くなっていることがわかっています(以下“”部分は『日本の気候変動2020年版』からの引用です)。

この経年変化によると、1953年以降、さくらの開花日は、10年当たり1.0日の変化率で早くなっている。また、かえでの紅葉・黄葉日は、10年当たり2.8日の変化率で遅くなっている(いずれの変化も信頼水準99%で統計的に有意)。

さくらの開花日が早まる傾向やかえでの紅葉・黄葉日が遅くなる傾向は、これらの現象が発現する前の平均気温との相関が高いことから、これら経年変化の特徴の要因の一つとして長期的な気温上昇の影響が考えられる。

本書34P

上記について概要版にグラフ(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/2020/pdf/cc2020_honpen.pdf#page=40)が表示されています。

こちらを見ると、桜の開花日は右下がり(早まり気味)、かえでの紅葉・黄葉日は右上がり(遅れ気味)となっているのがはっきりとわかります。

本書には“長期的な気温上昇の影響が考えられる”と記されており、温暖化の影響はこうした植物の開花時期や紅葉・黄葉時期の変化として表れています。

ちなみに、各都市の具体的な桜の開花日の変化は以下の通りです。

都市 30年平均値(1961~1990年) 平年値(1981~2010年)
釧路 5月19日 5月17日 ▲2日
札幌 5月5日 5月3日 ▲2日
青森 4月27日 4月24日 ▲3日
仙台 4月14日 4月11日 ▲3日
新潟 4月13日 4月9日 ▲4日
東京 3月29日 3月26日 ▲3日
名古屋 3月30日 3月26日 ▲4日
大阪 4月1日 3月28日 ▲4日
広島 3月31日 3月27日 ▲4日
高松 3月31日 3月28日 ▲3日
福岡 3月28日 3月23日 ▲5日
鹿児島 3月27日 3月26日 ▲1日

場所によって差はあるものの、ほぼ全国で早期化傾向にあることがわかります。

コラム 気象庁の生物季節観測
各地の気象台は構内および周辺地に「標本木」を定めています。標本木とは定点観測する際に用いる樹木のことで、たとえば、東京の桜の標本木には靖国神社のソメイヨシノが選ばれています。標本木を観測し、桜の場合、5 〜6輪の花が開いた時点で開花宣言、80%以上の花が開いた時点で満開宣言が出されます。標本木は老化や周辺環境の変化などを考慮し、正・副が選ばれていますが、万一、正の標本木が枯れてしまった場合などは副の標本木から正が選ばれるようになっています。ちなみに、上記図表のうち釧路ではソメイヨシノが一般的ではないため、北海道に多いエゾヤマザクラが標本木として選ばれています。
気象庁では桜・かえでのほかにも梅、あじさい、すすき、いちょう、からまつ、ききょう、栗、桑、さるすべり、しだれ柳など多くの植物について標本木を定めて観測してきました。また、赤トンボの初飛翔、セミの初鳴きといった事柄も観測し、記録に残してきました。しかし近年は気象台・測候所周辺の生物の生態環境変化や、適切な場所に標本木を確保することが難しくなっていること、さらに動物季節観測においては対象を見つけることが困難となっていることから、代表的な種目・現象のみ継続し、その他の観測は2021年に廃止しています。

気象庁 生物季節観測の情報に詳細が載っていますので、興味のある方はぜひアクセスしてみてください。

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