第11回 
オホーツク海の海氷面積は減少しており、今後も減少すると予測される

「日本の気候変動2020」を読み解く:地球の温暖化現象について気象庁は最新の科学的知見をまとめ、気候変動に関する影響評価情報の基盤情報(エビデンス)として使えるよう、『日本の気候変動』を発行しています。最新の知見が盛り込まれた本書の内容を紹介します。

前回までは日本近海の海面水位が上昇していることをお伝えしました。地球が温暖化すると、海洋上の氷が溶け出します。2022年1月時点では、オホーツク海沿岸に海氷が接岸したことがニュースとなりました。しかし今後もこうした状況は維持可能なのでしょうか。詳しく見ていきましょう(以下“”部分は『日本の気候変動2020年版』からの引用です)。

オホーツク海では10年当たり平年値の5.3%の割合で海氷域が減少している
●オホーツク海の年最大海氷域面積は、気温、風や海水温の変化による影響を強く受け、年ごとに大きく変動している。
●長期的に見ると、1971年から2020年まで、10年当たり6.1万km2の減少となっている(信頼水準99%で統計的に有意)。この値は、オホーツク海の年最大海氷面積の平年値の5.3%の海氷域が10 年ごとに消失していることを意味する。
本書32P

1971年以降、海氷面積は減り続け、しかも10年ごとに約5%の海氷が失われているとしています。10年ごとに5%であれば、1971年から2020年の約50年で25%、およそ4分の1の海氷がなくなったことを意味します。
オホーツク海の海氷はサハリン(樺太)北部の海水が寒さで凍り、シベリアからの冷たい北風に乗って徐々に大きくなりながら北海道に押し寄せています。当然ながら温暖化によって冷え込みが和らげば、海氷は小さくなってしまいます。

そして、そうした懸念は現実のものとなっています。

北海道沿岸では1980年代後半以降、流氷量の減少が著しい
(中略)
●北海道沿岸で流氷が観測される頻度が最も高い網走では、1989年以降の流氷量の減少が著しく、また、流氷終日が次第に早まっており、流氷初日も次第に遅くなる傾向が現れている。稚内と釧路では、1980年代後半以降、流氷が観測される頻度が低く、観測されても流氷量が少ないが、流氷初日と流氷終日の変化傾向は確認できない。
※流氷:海氷のうち、海を流れ漂い、海岸に定着していないもの。
本書32P

残念ながらこうした傾向は今後も続くと予想されています。

●SI-CAT海洋モデルによる予測では、オホーツク海の海氷が最大となる3月の海氷面積は、いずれの温室効果ガス排出シナリオにおいても、21世紀末(2081~2100 年平均)には20世紀末(1986~2005 年平均)と比べて減少する(確信度が高い)。
●減少の割合は、4℃上昇シナリオ(RCP8.5)では70±22%、2℃上昇シナリオ(RCP2.6)では28±34%と予測される(不確実性の幅は Wakamatsu et al. (2017) に基づく標準偏差)。ただし、2℃上昇シナリオ(RCP2.6)における減少の程度は、現在気候の変動の範囲内である。
本書33P

SI-CAT海洋モデルについては本コラム第9回で解説しています。このまま何も有効な対策が取られなければ、まさしく上記にある“現在気候の変動の範囲内”のとおり、現在続く温暖化傾向によって、海氷の面積はどんどん縮小していくことでしょう。
北海道の網走市は海氷が到来しますが、北緯は約44度。これは地中海北部のイタリア・ミラノよりも低く、他の地域ではそこまで冷え込みません。それにもかかわらず海氷が流れ着くのには実は理由がありました。詳細は以下コラムで解説します。

【コラム】オホーツク海の海氷について
北海道立オホーツク流氷科学センターの「わかるかな? 流氷Q&A」によれば、オホーツク海は海氷の南の限界に位置するそうです。というのもオホーツク海は四方を千島列島やユーラシア大陸に囲まれ、隣接する太平洋などと海流があまり行き来しないのです。そこにロシアのアムール川から大量の淡水が流れ込みます。そうすると、海流の少ない海では海水と淡水があまり混ざらず、海面近くの塩分濃度が下がります。つまり海面に近いほど結氷しやすくなるのです。そのようにして海氷ができ、これがシベリアからの強い北風に乗って南下し、北海道に到達します。
つまり、北海道のオホーツク海沿岸に海氷が流れ着くのはいろいろな自然の条件が重なった結果なのですが、その神秘は現在、温暖化によって危機的な状況を迎えています。
こうした自然の神秘をなんとか維持していきたいですね。

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