• 「日本の気候変動2020」を読み解く
  • 気象庁では『日本の気候変動』を毎年発行しています。地球の温暖化について最新の知見が盛り込まれた本書について解説していきます。

第6回 日本の南海上で猛烈な台風の存在頻度が増すと予測される

「日本の気候変動2020」を読み解く:地球の温暖化現象について気象庁は最新の科学的知見をまとめ、気候変動に関する影響評価情報の基盤情報(エビデンス)として使えるよう、『日本の気候変動』を毎年発行しています。最新の知見が盛り込まれた本書の内容を紹介します。

前回は台風と温暖化について、長期的な変化傾向はみられないことを確認しました。しかし、今後も温暖化が進んだ場合、台風の強度はどうなるでしょうか。
気象庁は将来の台風動向についても章を立てて解説しています。詳しく見ていきましょう(以下、“”部分は各所からの引用です)。

・日本付近の台風の強度は強まり、日本の南海上で猛烈な台風の存在頻度が増加すると予測される(確信度が中程度)。
・世界全体では、個々の熱帯低気圧に伴う雨と風は強まると予測される(確信度は高から中程度)。
本書21P

上記の文章の後には将来変化を予測した研究や、仮想的に地球温暖化が進行した状態で過去に発生した台風をシミュレーションした結果、日本付近では台風の強度が強まる結果となったものが多かったという一文が続きます。これまで見てきたように、地球温暖化により大気中の水蒸気量が増すと予想できるため、このようなシミュレーション結果が出ることは予想の範囲内でしょう。しかしながら、本予想の確信度は「中程度」です。若干低いような感じがしますが、これはなぜなのでしょうか。
その理由を探るために『日本の気候変動2020 詳細版』の該当箇所を参照したところ、以下のような記述がありました。

ただし、GCMの解像度が粗いこと等が原因で熱帯低気圧の強度が観測より弱い傾向があること、発達が遅れて高緯度側で強度が大きめに出る北偏バイアスがあること(Kanada and Wada, 2017)、過発達を抑える大気海洋結合効果は一部のGCMしか取り入れられていないことなど、熱帯低気圧の再現性に関する問題は依然としてあり、更なる予測モデルの改善が必要である。
※編集注 GCM:General Circulation Model(大循環モデル)。地球全体の大気や海洋の大規模な流れをコンピュータで再現するモデルのこと。大気モデルと海洋モデルの2種類があるが、日本の気候変動2020ではどちらもGCMとされている。
日本の気候変動2020 詳細版 105P

実は日本の台風の詳細な観測データは、気象衛星ひまわり1号打ち上げ後のもの(1978年以降)しか存在しません。そのため、長期にわたるデータ蓄積という点で信頼性が低くなってしまいます。さらに引用文にあるように、熱帯低気圧の再現性についてはコンピュータモデルによる計算を行うにはデータが粗く不十分という事情もあるようです。

なお、世界の台風については次のように解説されています。

●世界全体では、将来の熱帯低気圧の数は減少すると考えられるものの、その確信度については評価が分かれている。予測結果は国内外の地球温暖化シミュレーション結果の多くで整合しているが、熱帯低気圧の発生数の変化についての知見が十分でないことが、このように評価の分かれる背景にある。
●地球温暖化に伴い、個々の熱帯低気圧による雨と風は強まると予測される(確信度は高から中程度(Knutson et al., 2020))。その要因は、日本付近の台風が強まると予測される理由と同様に、地球温暖化に伴い水蒸気量が増加するためと考えられている。
本書21P

上記のように評価が分かれているのは健全な研究が行われていることの証左と言えるかもしれません。そして、科学や分析技術が進歩しても、世の中にはまだ分からないことがたくさんある、ということでもあります。
もっとも、今後も温暖化が進むようであれば、台風の勢力は強まりこそすれ、弱まりはしないと言えそうです。

気候変動豆知識
気候変動の研究でノーベル賞受賞
2021年のノーベル物理学賞を受賞した米国籍の科学者・真鍋淑郎氏は、1960年代にコンピュータで地球の気候を再現する気候数値モデルを開発した業績が評価されました。今回の記事に登場した地球全体の大気や海洋の大規模な流れをコンピュータで再現するモデル「GCM」の基礎を築いた学者であり、また、大気中の二酸化炭素濃度が上昇すると気温が上がることを数値で初めて示した学者の1人でもあります。真鍋氏は米・プリンストン大学の上席研究員として現在も気候変動モデルに関する研究を行っています。現在、世界中で気候変動の研究が進んでいるのは、日本を飛び出した1人の科学者のおかげでもあるのです。

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