第9回 日本近海の平均海面水温は、今後も世界平均より大きな割合で上昇すると予測される

「日本の気候変動2020」を読み解く:地球の温暖化現象について気象庁は最新の科学的知見をまとめ、気候変動に関する影響評価情報の基盤情報(エビデンス)として使えるよう、『日本の気候変動』を発行しています。最新の知見が盛り込まれた本書の内容を紹介します。


前回は日本近海では場所によって違いはあるものの、世界平均の2倍超の割合で水温が上昇していることを紹介しました。そして、残念ながらその傾向は今後も続くことが高い確信度で予想されています。詳しくみていきましょう(以下“”部分は『日本の気候変動2020年版』からの引用です)。

21世紀末の世界平均海水温は、20世紀末と比べ、ほぼ確実に上昇すると予測される(確信度が高い)
4℃上昇シナリオ(RCP8.5)では、21世紀末の日本近海の平均海面水温は、約3.6℃上昇すると予測される
(中略)
・SI-CAT海洋モデル※による予測では、21世紀末における日本近海の海面水温は、20世紀末と比べて有意に上昇する(確信度が高い)。
・日本近海の平均海面水温の上昇の度合いは、4℃上昇シナリオ(RCP8.5)では3.6±1.3℃、2℃上昇シナリオ(RCP2.6)では1.1±0.6℃と予測される(不確実性の幅は90%信頼区間)。これらの見積りは、世界平均より大きい値となっている。
・日本近海の海面水温上昇は一様ではなく、上昇の割合は、4℃上昇シナリオ(RCP8.5)では釧路沖や三陸沖で、2℃上昇シナリオ(RCP2.6)では日本海中部で大きい。
・世界平均より上昇幅が大きく海域で一様でない要因としては、偏西風の北上に伴う亜熱帯循環の北上が考えられる。
※編集注 SI-CAT海洋モデル:Social Implementation Program on Climate Change Adaptation Technologyの略で、気候変動適応技術社会実装プログラムの海洋モデルのこと。本プログラムでは気候変動の脅威から住民の安全や資産を守るため、国家プロジェクトとして地球科学、社会科学・人文学等の研究者が自治体関係者らと協力し、将来必要となる適応策を見いだし、そのための技術開発を実施しています。
本書28P


日本近海の海面水温上昇が一定でないことは前回でも明らかになっていましたが、4℃上昇シナリオ(RCP8.5)では釧路沖や三陸沖で、2℃上昇シナリオ(RCP2.6)では日本海中部で水温の上昇が大きいと予想されています。亜熱帯循環とは、各大洋の亜熱帯域で生じる高気圧性の循環海流のこと。太平洋の黒潮などがこれにあたります。
上昇シナリオによって海水温が上昇する場所が異なる理由については本書詳細版に次のように記載されています。

SI-CAT海洋モデルによる4℃上昇シナリオ(RCP8.5)下の将来予測では、日本近海の水温は世界平均より上昇率が大きい。なかでも三陸沖や釧路沖で特に海面水温の上昇率が大きい。これらの海域は、モデルの現在気候における海面水温の南北傾度が大きい領域(海洋前線域)に対応している。今回用いたモデルでは、偏西風の北偏に伴い北太平洋の亜熱帯循環が北偏する傾向が見られたことから、その結果として、特に海洋前線域で大きな水温差が生じたと考えられる。
本の気候変動2020(詳細版)146P

海水温が上昇すると、偏西風などの動きが変わり、その結果、海流の循環運動に変化が生じます。その変化は2℃上昇時と4℃上昇時では異なります。その結果として、上昇シナリオによって水温が上昇する場所が変わると予想されていることがわかります。

今後、海水温も上昇を続けるとどんなことが起きるでしょう。たとえば、北極の氷は急速に溶け出しており、国立極地研究所によれば、北極海の夏の海氷面積はこの40年で半減したとのことです。この傾向が続けば、生態系に大きな変化が生じることでしょう。生物多様性が一層失われる可能性もあります。

1人ひとりにできることは限られていますが、省エネ活動などに取り組むことで、省電力による温暖化ガスの排出削減が実現します。
個人でできる取り組みについては以下サイトも参考にしてください。
省エネの達人『企業編』省エネコラム

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