第15回 北西太平洋、日本沿岸域とも、世界平均と同程度で酸性化が進行している

「日本の気候変動2020」を読み解く:地球の温暖化現象について気象庁は最新の科学的知見をまとめ、気候変動に関する影響評価情報の基盤情報(エビデンス)として使えるよう、『日本の気候変動』を発行しています。最新の知見が盛り込まれた本書の内容を紹介します。

大気中に二酸化炭素などの温暖化ガスが増えると、そのうちの一部が海水に溶け込みます。その結果、二酸化炭素は炭酸として作用するため、本来であれば弱アルカリ性である海水が、少しずつ酸性化していきます。
地球はいまから約46億年前に誕生したといわれていますが、そのときの表面温度は1500℃以上であり、水蒸気、二酸化炭素、窒素といった大気で形成されていました。やがて地球上で水蒸気が循環するようになり、海が形成されます。誕生したばかりの海には塩素ガス、塩酸ガス、亜硫酸ガスといった火山からの有害なガスが多く溶け込んでおり、強い酸性だったといわれています。
その後、長い年月を経て地中のミネラル分などが溶け出すことで、海水は徐々に弱アルカリ性となっていきました。この変化はおよそ10億年かかっています。
その弱アルカリ性の海が、二酸化炭素をはじめとする温暖化ガスの影響により、近年酸性化が進んでいるのです。 本文を見てみましょう(以下“”部分は『日本の気候変動2020年版』からの引用です)。

世界の海洋で酸性化が進行している
・化石燃料の燃焼などにより人為的に大気中に排出された二酸化炭素のおよそ30%は海洋に吸収されている。吸収された二酸化炭素は炭酸として作用するため、弱アルカリ性である海水の水素イオン濃度指数(pH)は少しずつ低下している(酸性化)。
・世界平均のpHは、10年当たりおよそ0.02の速度で低下している。工業化以降(1750年以降)現在までに、表面海水のpHは0.1低下した(水素イオン濃度の25%の増加に相当)と見積もられている。
・酸性化はサンゴや貝類などの生物の骨格形成を困難にすることから、海洋生態系への影響が懸念されている。
本書41P

海水が酸性化するとどのような問題が起きるのでしょう。『日本の気候変動2020(詳細版)』に海の酸性化がもたらす影響が詳しく書かれています。

サンゴ、貝類、ウニ、有孔虫、円石藻類など、様々な海洋生物が炭酸カルシウムの骨格や殻を作るが、pH が低下することで海水の炭酸カルシウム飽和度も低下しており、それらの骨格や殻を作りにくくなりつつあるなど、海洋の生態系に大きな影響を与えることが懸念されている。海洋酸性化は、「もう一つの二酸化炭素問題」とも呼ばれ、地球温暖化と並び人為的な二酸化炭素排出により生じる深刻な地球環境問題である。IPCC(2013)では、工業化以降(1750年以降)の人間活動で排出された大気中の二酸化炭素を海洋が吸収することにより、表面海水の平均的なpHは現在までに0.1低下した(水素イオン濃度の25%の増加に相当)と見積もられている。また、冬季に冷たい大気により冷やされ重くなった表面付近の海水が鉛直混合により海洋内部まで運ばれて全世界に広がっていくため、海洋酸性化は海洋内部でも進行している。大西洋では水深約4,000m(Rios et al.,2015)、太平洋でも約1,000m(Carter et al.,2016)という深海でも、長期的なpHの低下が観測されている。
『日本の気候変動2020(詳細版)』193P

上記のように海水の酸性化は貝類などへの影響はもちろん、これらを餌とする魚類や甲殻類にも影響がおよびます。地球温暖化ほどの注目を集めてはいませんが、実はこちらも“深刻な地球環境問題である”と記されているように、生き物の生息環境に大きな影響があるのです。

世界で進む海水の酸性化

海水の酸性化は、世界各地で起きています。

北西太平洋や日本沿岸域でも、世界平均と同程度の割合で酸性化が進んでいる
・長期にわたり海洋観測が行われている東経137度のpHの変化を見ると、pH値自体は海面水温の高い低緯度ほど低い値を示すが、全ての緯度で明らかな低下傾向を示しており、世界平均と同程度の割合で酸性化が進んでいる。
・日本の沿岸域では、河川や陸域の影響を受けるため海域による違いが大きいが、平均的には酸性化する傾向にある。1978年から2009年までの期間におけるpHの低下速度は、年間最小値をとる夏季で10年当たり0.014、年間最大値をとる冬季で0.024と、外洋域の観測値と同程度の値が報告されている。
本書41P

ちなみに、『日本の気候変動2020(詳細版)』の196Pには、“海洋酸性化は、4℃上昇シナリオ(RCP8.5)では今後も進行する可能性が高く、2℃上昇シナリオ(RCP2.6)では、海洋酸性化の進行が2050 年頃までには止まり、それ以上の低下は抑えられる可能性が高い(確信度が高い。IPCC (2013); 図15.2.1)。”と書かれています。

パリ協定では「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことが共通の目標として掲げられています。日本政府もパリ協定を達成するために2050年までのカーボンニュートラルを宣言しています。世界の国々がこうした目標を実現することで、海の酸性化は止められる可能性があります。 これからの具体的な行動に期待が高まります。

関連記事一覧