再エネ大量導入を可能にする仮想発電所への期待
経済産業省は2016年4月、2030年の望ましい電源構成(ベストミックス)を達成するための「エネルギー革新戦略」を決定した。昨年7月に策定した長期エネルギー需給見通しの実現を目的としている。
そこでは再生可能エネルギーの拡大のための項目を示し、①固定価格買い取り制度(FIT)の見直しによる国民負担の抑制と最大限導入の両立②系統制約の解消③再エネ拡大に向けた規制改革④研究開発の重要性⑤関係府省庁連携プロジェクトの推進を明らかにしている。
加えて、「革新戦略による新たな展開」として、「低炭素電源市場の創出と再エネ産業の再構築」という電力市場を活用した再エネ促進などの方向性を示している。その中の取り組みの一つにVirtual Power Plants(VPP)技術の活用が挙げられる。具体的には、2016年度の経済産業省の概算要求に「バーチャルパワープラントに関する実証事業」の案件があり、この実証によってVPP技術の日本適用に向けた取り組みの具体的検討が開始される。
電力系統上に散在する再生可能エネルギー発電設備、蓄電池などエネルギーリソースを統合的に制御し、あたかも一つの発電所(仮想発電所)が存在するように機能させるVPP事業とともに、高度制御型のディマンドリスポンス(需要応答:電力価格や要請に応じて需要家が消費調整すること)を含めた事業の実証を実施し、2020年内のバーチャルパワープラント市場の実用化を目指すとしている。
VPPを活用すると、風力発電や太陽光発電の発電量が天候の影響で低下したときには、系統に接続された蓄電池による放電制御を行える。また、活用可能なコジェネレーションシステムなどを含む自家発電設備を需要家の業務に影響を与えない範囲で系統への電力供給に切り替えたり、需要家向けに信号を送り、消費する電力需要を抑えるといった制御もできる。不足する電力分を発電する代わりに、相当する需要を削減することで需給の調整を図るのである。
このように、再生可能エネルギーの系統接続が増大した場合にでも、VPPによる制御を行うことで、再生可能エネルギーの系統への影響の軽減または系統の安定化を行うアンシラリーサービス(系統の周波数を維持するといった運用補助サービス)の提供も可能となる。VPPの導入により、複数の分散型電源が協調・連携することで、設備の有効活用と効率運転が行えるのだ。ただし、その実現には配電網整備および配電会社の協力が不可欠である。
早稲田大学 名誉教授。電力技術懇談会会長。環境・エネルギー・電力システムの市場分析に特化。再生可能エネルギーやスマートグリッドに代表される環境・エネルギーシステム研究の第一人者。