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未来倫理|エコブックス

今を生きる人が未来世代を配慮する理由

 なぜ今を生きる人が未来の世代を配慮した行動をとる必要があるのか、その倫理的指針となる「未来倫理」について解説する本。
 地球温暖化が問題視された当初は疑う声が多く対処の足取りは重かった。だが現在、対策レベルは確実に底上げされている。酷暑や豪雨などかつてはまれだった過酷な異常気象が頻発しているからだ。もはや気候変動は先送りした未来が被る問題ではない。そして今それを放置すると「未来世代には現在世代と同じようにこの問題に働きかける可能性がほとんどなくなってしまう」(131頁)。
 本書では未来倫理の6つの理論を紹介している。話し合って皆で納得したことが正しいとする「契約説」、最大多数の最大幸福を考える「功利主義」、弱いものに対して気遣うべき責任があるとする「責任原理」のほか、「討議倫理」「共同体主義」「ケアの倫理」を挙げている。
 ただし、これらを未来世代への配慮のための完全な倫理的指針とはしていない。いずれにも未完成な部分はある。解説文でも、平易な言葉にしたためか筋が見えにくくなっている箇所もある。著者はこれらをいわばヒントとして示したうえで「読者の方々自身の思考を深化させてもらいたい」(215頁)と訴える。
 刊行は2023年1月。異常気象がまれだった当時に本書が広まり人々の思考が深化していたらと考える。

集英社新書 1,034 円(税込)

戸谷洋志 著
1988年東京都生まれ。哲学研究者、関西外国語大学准教授。法政大学文学部哲学科卒業、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現代ドイツ思想を中心にしながら、テクノロジーと社会の関係を研究。


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