再エネ大量導入時代の電力貯蔵技術の役割 蓄電池、揚水、水素などを適所で利用
日本は2030年度までに温室効果ガスの排出量を26%削減(2013年度比)する目標を掲げている。その実現には、発電効率の向上や省エネルギーの推進のほか、太陽光や風力といった再生可能エネルギー(再エネ)の積極的な活用が必要になってくる。
だが再エネは日射量や風速など気象条件によって発電量が左右され、これらを大量導入すると電力系統運用に支障をきたす懸念がある。そこで再エネの出力変動を吸収するため系統用貯蔵技術などを使い電力需給の安定性を高める必要がある。
そうした中、実施されているのが各種貯蔵装置の実証試験である。蓄電池分野では、負荷平準化の期待が大きいナトリウム硫黄電池(九州電力 豊前蓄電池変電所)、非常用電源としても用いられるレドックスフロー電池(北海道電力 南早来変電所)などが注目される。またリチウムイオン電池(東北電力 西仙台変電所、南相馬変電所)などの大規模実証も進んでいる。
揚水式発電も需給調整力として期待される技術。揚水式発電は需要の平滑化が図れ、短時間での起動・停止が容易で、負荷変動への追従性も高い。そのためこれまでは調整用発電としての利用が主だった。その利用法を発展させ「夜間の揚水・昼間の発電」という運転方式の見直しや、発電と揚水の同時運転による効率化といった手法で再エネ大量導入のひずみに対応させる。
また、地球規模の大気汚染や温室効果ガス排出削減が期待できる解決法として水素エネルギーの活用がある。化石燃料の水素へのエネルギー転換や再エネでの水素製造が提案されている。このような水素エネルギー社会を実現するためには、水素の製造・貯蔵、水素で発電する燃料電池システムやそれを応用した燃料電池自動車の開発が急がれる。
水素貯蔵や揚水式水力は出力が10メガワット以上と大きい。放電時間も数時間レベル以上と長く、需要変動対応や余剰電力対応への活用が可能だ。よってこれらに適するのは送電や発電側への設置だ。一方、蓄電池の放電時間は比較的短いが、構成に柔軟性があり、数キロワット〜百メガワットの出力に対応するため周波数調整や中小規模の余剰電力対応に活用できる。よって蓄電池は需要側や発電側での幅広い利用が適する。それぞれ適所での開発が進行中である。
早稲田大学 名誉教授。電力技術懇談会会長。環境・エネルギー・電力システムの市場分析に特化。再生可能エネルギーやスマートグリッドに代表される環境・エネルギーシステム研究の第一人者。