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  • 東日本大震災から復興への歩みをみせる被災地の企業や日本テクノの取り組み

200年の歴史を未来へつなぐ Scene 58

災禍を越え、新たな出発

 2016年4月、熊本県を連夜襲った熊本地震。阿蘇郡南阿蘇村の旅館「地獄温泉青風荘.」(以下、青風荘)は、地震とその後発生した土石流により甚大な被害を受けた。被害総額は15億円。再建は困難と思われたが、奇跡的に被害を免れた露天風呂「すずめの湯」の復興を足掛かりに「地獄温泉よみがえりプロジェクト」を立ち上げ、震災から4年後の2020年9月に全面営業再開するに至った。復興までの道のりを副社長の河津謙二さんに聞いた。


 青風荘が立つ地獄温泉は古くから湯治場として親しまれてきた。江戸時代には細川藩が所有していたが、明治時代になると民間に払い下げられる。青風荘が法人化したのは昭和に入ってからだが、温泉地としては200年以上の歴史を持つ。
 3万坪の広大な敷地には複数の温浴施設があり、震災当時も約30名が宿泊。揺れで建物のゆがみなども発生したため、宿泊客と従業員は全員それぞれの車へ避難し一夜を過ごした。翌朝、周辺の道路が寸断されていることが判明。孤立状態になったが当日のうちに自衛隊の救助が駆けつけ全員無事に避難できた。
 当初は建物を修理し1年以内に営業を再開できると思われたが、2ヵ月後の豪雨で裏山が崩落。ほとんどの建物が土石流に飲み込まれ床上40cmまで埋まり、解体を余儀なくされた。しかし、被害を受けても源泉は変わらず湧き続けていた。立ち上る湯気は河津さんたちに勇気を与え「必ずここで復興する」という思いを強くさせた。
 地震と土石流により南阿蘇村は危険地域に指定された。そのため行政からはボランティア要請が出せない。途方に暮れたが、相談に訪れた村役場に居合わせた民間団体の協力を得て「地獄温泉よみがえりプロジェクト」を立ち上げた。これに賛同したボランティアが複数回にわたり復旧作業に参加してくれた。のべ3000人が建物解体前の土砂やがれきの撤去に当たった。幸いにも明治中期に建設された本館は比較的被害が軽く乾燥・消毒などを施して以前と変わらぬ姿を残すことができた。

プロジェクトに賛同したのべ3000人のボランティアが懸命に作業

 再建には国の補助金を利用した。地域の中小企業などでグループをつくり、共同事業を盛り込んだ事業計画を策定し補助金を受ける制度だ。青風荘はグループの代表企業となり、南阿蘇村の経済復活に尽力した。「代表企業としてがんばる姿勢を見せなければと必死だった」と河津さんは話す。
 そのほか保険金や国の貸付金も活用したが、それでもなお足りない資金はクラウドファンディングで募った。ファンドの説明会は東京や大阪でも開催した。「起こってしまったことを嘆いていても仕方がない。今後にどうやってつなげていくか」を常に考えながら、再開の折には来館してもらいたい、つながりをつくりたいという思いを込め説明を行った。
 2019年4月、「すずめの湯」の日帰り入浴を再開した。震災と同じ日付である16日にオープンすることで、災害に負けない新しい出発とした。その後、ほかの温浴施設も次々に営業再開。翌年9月にはようやく宿泊客を迎え入れられるようになり、全面再開に至った。
 「震災前から、当館自慢の温泉を多くの方にどう提供していくかを第一に考えてきました。これからも、より気持ちよく利用していただくために工夫を重ねていきます」と今後に向けた意気込みを語ってくれた河津さん。この地で守り続けてきた湯治文化を未来へ伝えていくため、古きよき伝統を守りつつ、
新しい息吹も吹き込んでいきたい。災禍を乗り越えてきた河津さんの気持ちは、これからの200年に向けた湯治場づくりに真剣に向き合っていた。

お話を聞かせてくれた河津さん。明治時代から変わらぬ姿の本館前にて
新しく建てたフロント棟。地震に強い伝統工法が用いられている

こぼれ話

土砂崩れが起きた南阿蘇の外輪・夜峰山は、日本書紀に「健磐龍命(たけいわたつのみこと・阿蘇津彦)の妻である阿蘇津姫が出産するとき、その身を隠せるように一夜で築き上げた」と記されている山。地獄温泉はこのように神話に登場する古い地にあるんですね。お話を伺って、なんてダイナミックな神様なんだと思いましたが、古来からの阿蘇の活発な火山活動がそのようなエピソードを生んだのかもしれませんね。
青風荘に至る道の途中、岩盤がむき出しの野性味あふれる滝がありました。しばし車を停めて眺め入ってしまったことを河津さんにお伝えすると、「地震の前は紅葉がきれいだったんですよ。滝の流れる岩肌に樹木が生えていたんですが、地震で崩れ落ちてしまって。景色がだいぶ変わってしまいました」とかつての姿について話してくれました。元の姿を見てみたかった気もしますが、岩肌がむき出しの現在の姿も勇壮です!青風荘.にお立ち寄りの際はぜひ足を止めてみてくださいね。

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